このように、インフレやデフレがよいか悪いかは、単に物価が下がったか上がったかだけでは、分かりません。 例えば、需要がたくさんあることによって起こるインフレは、よいインフレですが、輸入原油の価格上昇によって起こるインフレは、悪いインフレなのです。この違いを念頭に置いておいて
このように、個々の正しい行動でも、それが積み重なった結果、全体として、好ましくない事態がもたらされてしまう。このような現象を、経済学の用語で「合成の 誤謬」 と言い
ミクロ(個々の企業や個人)の視点では正しい行動も、その行動を集計したマクロ(経済全体)の世界では、反対の結果をもたらしてしまう。デフレ下で支出を切り詰めて楽になろうとしたら、それがさらなる需要縮小を
デフレが続いて、生活がますます苦しくなる。このデフレという現象は「合成の誤謬」の典型であると言え
平成の日本では、民間企業が内部留保を貯め込み、賃上げもしなければ、積極的な設備投資や技術開発投資もしなくなってしまいました。日本企業は、画期的な新製品を送り出したり、イノベーションを生み出したりする力を失っています。 こうしたことから、日本企業の経営のあり方が批判されてきました。経営システムが悪いとか、企業経営者に先見の明がないとか、失敗を恐れてリスクをとらないから駄目だとか、戦略やビジョンがないとか。新聞やビジネス雑誌には、日本経済の停滞を企業経営のせいにするような議論があふれています。 しかし、こうした経営批判は、ほとんど的外れです。 というのも、 企業が内部留保を貯め込むのも、賃上げをしないのも、積極的な投資を恐れているのも、ひとえに、デフレという経済環境のせい だから
これまで説明してきたように、需要不足のデフレ下においては、企業が投資を控え、賃上げもできず、内部留保を貯め込むのは、仕方のないこと。というよりはむしろ、経済合理的な行動なの
なぜ日本経済は、成長しなくなったのか。答えは、簡単です。 それは、日本政府が「デフレ下におけるインフレ対策」という愚行を続けてきたからです。それでデフレが続くようになった。だから、経済成長もしなくなった。 当然の結果でしょう。何も不思議なことはありませ
繰り返しますが、デフレの時の生産性の向上は、かえって経済成長を阻害します。 政府は、まずはデフレ脱却を果たし、経済をインフレにする。その上で、生産性の向上を促し、経済成長を実現する。 そういう順番で政策を実行するべきなの
しかし、すでに説明した通り、デフレの時に支出を抑えることは、一個人や一企業の行動としては合理的ですが、その積み重ねが全体として需要不足を招き、経済全体をデフレへと追い込んでしまう。 もっとも、個人や企業がデフレの下で支出を抑制してしまうのは、無理もないことです。なぜなら、それが経済合理的だからです。しかし、そのような時に、政府までもが支出を抑制してしまったら、デフレはさらに悪化してしまうのは必定
まとめるならば、 デフレの時には、次のような優先順位になります。 最善の策:必要なものを造る公共投資 次善の策:無駄なものを造る公共投資 無策:公共投資を増やさないこと 最悪の策:公共投資の削減 平成の日本は、このうち「無策」と「最悪の策」ばかりやってきまし
さて、経済としては、一般的に、デフレのほうが異常です。正常に成長している経済では、物価は穏やかに上昇しています。マイルドなインフレが、正常なのです。 要するに、生産性の向上や無駄の排除が「正しい」と思われているのは、マイルドなインフレの正常な経済を暗黙の前提としているからなの
ビットコインの仕組みは、金貨の電子版ともいうべきものです。それゆえに、デフレを引き起こすという金本位制と同じ問題を抱え込んでしまっているのです。 ビットコインには、ブロックチェーンなど最新のテクノロジーが用いられているそうです。しかし、ビットコインの仕組みは、「金本位制」という古くて欠陥のある制度と発想が同じなの
これに対して、現代の通貨は、貴金属との交換が保証されていません。これを「不換通貨」といいます。不換通貨は、 金 の量に制約されずに、供給量を増やせるので、デフレを回避できるの
銀行が貸出を行う際は、貸出先企業Xに現金を交付するのではなく、Xの預金口座に貸出金相当額を入金記帳する。つまり、銀行の貸出の段階で預金は創造される仕組みである( 注 12)。 「銀行の貸出の段階で預金は創造される」 のですから、銀行の貸出しが、元手となる資金の量的な制約を受けるということはありませ
繰り返しますが、 銀行の貸出しが元手となる資金の量的な制約を受けるということはありません。 もっとも、だからといって、銀行は何の制約もなく、いくらでも融資ができるというわけではありません。さすがに借り手側に返済能力がなければ、銀行は貸出しを行うことができない。 というわけで、銀行の貸出しの制約となるは、貸し手(銀行)の資金保有量ではなく、「借り手の返済能力」だ ということになります。 あえて大雑把に言えば、「借り手側に返済能力がある限り、銀行は、いくらでも貸出しを行うことができてしまう」ということ
黒田日銀の量的緩和がインフレを起こすのに失敗したのは、当然でしょう。 貨幣供給量が増えるとマネタリー・ベースが増えるのであって、マネタリー・ベースが増えるから貨幣供給量が増えるのではない から
そして、政府の借金は、 金 の保有量の制約は受けないのはもちろん、民間部門の貯蓄という制約すらも受けません。 図6 で説明した通り、①から⑤のプロセスは、無限に回るの
「そんなのは『錬金術』じゃないか!」と言うのならば、あえて断言しましょう。 現代の資本主義経済においては、錬金術が可能になってしまっているの
答えを先に言えば、 日本政府について言えば、その返済能力には、限界はありません! 理由は簡単。借金の返済に必要な通貨(日本で言えば「円」)を発行しているのは、ほかならぬ政府(より厳密には「中央政府」と「中央銀行」)自身だからです。 ここで重要なのは、政府は、民間主体とは違う存在だということです。 政府は、通貨を発行する能力があるという点において、個人や民間企業とは決定的に異なります。 当たり前ですが、個人や民間企業は通貨を発行できないので、収入を得て、そこから借金を返済しなければならない。 ところが、通貨を発行できる政府には、その必要はないのです。 したがって、 自国通貨建ての国債は、返済不能に陥ることはあり得ません。 自国通貨建てで国債を発行している政府が、債務不履行になって財政破綻することはないの
国債は、自国通貨建てである限り、そして政府に返済の意思がある限り、いくら発行しても、債務不履行になることはあり得ません。 そして、日本政府の発行する国債は、すべて円建てです。しかも、日本政府には返済の意思があります。したがって、日本政府が、財政破綻することはあり得ません。 そうなる理由は、政府が通貨発行権をもっているからです。 永遠に財政破綻しない政府であれば、債務を完全に返済し切る必要もありません。 国債の償還の財源は、税金でなければならないなどということもありませ
まず、政府が、財政赤字を拡大しまくったら、何が起こるかを考えてみましょう。 例えば、政府が盛んに公共投資をやり、投資減税や消費減税をやったら、需要が拡大して、供給力を超えるので、インフレになります。 それにもかかわらず、公共事業をやりまくり、ついでに無税にしてみたら、どうなるか。おそらく、インフレが止まらなくなり、遂にはハイパーインフレになるでしょ
インフレとは貨幣の価値が下がることですが、ハイパーインフレになると、お札はただの紙切れになってしまいます。ハイパーインフレは、さすがに困る。いくら政府に通貨発行権があっても、その通貨が無価値になってしまうのです。ハイパーインフレこそ、国家の財政破綻と言っていいでしょう。 要するに、財政赤字が拡大し過ぎると、インフレが行き過ぎるのです。 ということは、財政赤字はどこまで拡大してよいかと言えば、「インフレが行き過ぎないまで」ということになります。 財政赤字の制約を決めるのは、インフレ率(物価上昇率) なの
財政赤字の制約となるのは、民間部門の貯蓄ではない(財政赤字は、それと同額の民間貯蓄を創出するから)。 財政赤字の制約となるのは、政府の返済能力でもない(政府には、通貨発行権があるから)。 財政赤字の制約を決めるのは、インフレ率である。インフレになり過ぎたら、財政赤字を拡大してはいけない。 財政赤字を無限に拡大できない理由は、そんなことをすると、ハイパーインフレになってしまうからで
税は、財源確保の手段ではない 財政赤字が拡大し過ぎるのが、なぜいけないのか。それは、インフレが行き過ぎるからです。 なぜ、無税国家は、あり得ないのか。それは、無税国家にすると、ハイパーインフレになってしまうからです。 言い換えると、なぜ税金は必要なのか。それは、インフレが行き過ぎるのを防ぐためだということ
つまり、 税金とは、物価調整の手段なのです。財源確保の手段ではありませ
信用貨幣論をご理解いただいた読者にはお分かりだと思いますが、「税収が増える」ということは、その分、貨幣が消滅し、貨幣供給量が減って、デフレが悪化するということなのです。財政健全化論者は、貨幣が何かを分かっていないということです
加えて、 市場は、本当は、日本の財政が破綻するなどとは信じていない。 これが、国債の金利が低い第二の理由です。 すでに述べたように、日本政府は、ギリシャとは違って、自国通貨を発行できるので、債務不履行に陥ることはあり得ない。それに、財政赤字の拡大それ自体が金利を押し上げるということもない。 経済学者や経済アナリストが何と言おうが、これが現実です。市場の金利が上がらないのは、この現実を反映しているにすぎません。言い換えれば、日本政府は、市場からの信認を十分に得ているということです。 実際、金融危機などが起きて株価が急落すると、円高になることがよくあります。しかし、金融危機が起きると、財政危機の国の通貨が買われて高くなるなどというのは変な話でしょう。要するに、市場は、日本円が安全資産であること、つまり日本の財政破綻などあり得ないということを分かっている
財政破綻の例としてよく引き合いに出されるアルゼンチンとギリシャは、財政制度等審議会が悲願とする「プライマリー・バランスの黒字化」目標を、見事に達成していました。そして、その後、まもなくして、財政破綻に陥ったの
僕たちは自分の寿命を知らない。 90 歳、100歳まで生きられるように努力する。だから必ず「蓄え」は「過剰」になり、その分、「消費」は「過少」になる。しかも、高齢者になった自分の子どもにそれが相続され、貯蓄としてまた塩漬けにされる。 これじゃあ景気がよくなるわけがない。税でこのお金を社会の蓄えに変え、人間の暮らしのために毎年使ったほうが、景気が刺激されるに決まって
本書の内容を、簡潔におさらいしましょう。 15 のポイントにまとめました。 (1)平成の日本経済が成長しなくなった最大の理由は、デフレである。 デフレとは、物価が下がり続ける=貨幣の価値が上がり続ける状態である。 貨幣の価値が上がり続ける状態では、誰も支出をしたがらないので、経済は成長しなくなる。 経済成長には、マイルドなインフレ(貨幣の価値が下がり続ける状態)が必要で
(2)デフレとは、「需要不足/供給過剰」が持続する状態である。 インフレとは、「需要過剰/供給不足」が持続する状態である。 したがって、インフレ対策とデフレ対策は、正反対となる。 ①インフレ対策 「小さな政府」、財政支出の削減、増税 金融引き締め 生産性の向上、競争力の強化(規制緩和、自由化、民営化、グローバル
②デフレ対策 「大きな政府」、財政支出の拡大、減税 金融緩和 産業保護、労働者保護(…
(3)新自由主義は、本来、インフレ対策のイデオロギー。 デフレ…
(4)平成日本は、デフレ下にあったのに、新自由主義のイデオロギーを信じ、インフレ対策(財政支出の削減、消費増税、規制緩和、自由化、民営化、グローバル化)をやり続けた。 その当然の結果として…
(5)貨幣とは、負債の特殊な形式である…
(6)貨幣には、現金通貨と預金通貨がある。 預金(預金通貨)を…
預金は、銀行が貸出しを行うと創造される(信用創造)のであって、銀行が預金を集めて貸出すのではない。 銀行の貸出しは、銀行の保有する資金量の制約を受けない。ただし、借り手の返済能力の制約は受ける。 借…
(7)「現代貨幣理論」の貨幣理解のポイント まず、国家は、国民に対して納税義務を課し、「通貨」を納税手段とすることを法令で決める。 すると、国民は、国家に通貨を支払うことで、納税義務を履行できるようになる。 その結果、通貨は、「国家に課せられた納税義務を解消することができる」という価値をもつこととなる。…
(8)量的緩和(マネタリー・ベースの増大)では、貨幣供給量は増えない。 貨幣供給量を増やすのは、借り手の資金需要である。 デフレ下で貨幣供給量を増やすためには、政府が資金需要を拡大するしかない(財政出動…
(9)財政に関する正しい理解(「機能的財政論」) ①民間金融資産は、国債発行の制約とはならない。 財政赤字は…
②政府は、自国通貨発行権を有するので、自国通貨建て国債が返済不能になることは、理論上あり得ないし、歴史上も例がない。 政府は、企業や家計とは異なる。 ③財政赤字の大きさ(対…
④財政赤字の大小を判断するための基準は、インフレ率である。 インフレが過剰になれば、財政赤字は縮小する必要がある。 デフレであるということは、平成日本の財政赤字は少な過ぎるということ。 ⑤税は、財源確保の手段ではない。…
10)財政赤字を拡大しても、それだけでは金利は上昇しない。 デフレを脱却すれば金利は上昇するが、それはむしろ正常な状態である。 金利の上昇は、日銀の国債購入によって容易に抑制できる。 (11)国内民間部門の収支+国内政府部門の収支+海外部門の収支=0 国内政府部門の赤字は、「国内民間部門+海外部門」…
(12)税収=税率×国民所得。 政府は税率を自在に上げられるが、国民所得は景気次第なので、…
歳出削減や増税はむしろ景気を悪化させるので、税収を増やすことには失敗する。 財政健全化は、やっても無駄であるし、デフレ下では、むしろやってはならない。 (13)財政政策の目的は、「財政の健全化」ではなく、デフレ脱却など「経済の健全化」でなければならない。 (14)自由貿易が経済成長をもたらすとは限らないし、保護貿易の下で貿易が拡大することもある。 グローバリゼーションは避けられない歴史の流れなどではなく、国家政策によって抑制…
(15)主流派経済学は、過去 30 年間で、進歩…
主流派経済学者は、一般均衡理論という、信用貨幣を想定していない非現実的な理論を信じている閉鎖的な集団の一員である。 日本において影響力のある経済学者は、ほぼ全員、(1)から( 14)までの内容を知らないか、正確に理解していない