362.サッカー止める蹴る解剖図鑑 風間八宏

・足の後ろ側の筋肉を使う
足の前側の筋肉を使うとブレーキが掛かってしまう。前に進むために働くのは主に足の後ろ側の筋肉。

・滑るように走る
メッシの走り方は足の裏があまり見えない

・シュートは低く打つ
シュートはやはり低いほうが入りやすい。GKがボールに届くまで時間がかかりますから。たくさん点を取れるストライカーとは、下の隅に蹴れる選手ですよ。

 

361.世界で通じる子供の育て方 サッカー選手を目指す子供の親に贈る40のアドバイス 浜田満

サッカーというスポーツは、ほとんどすべての時間で「判断を伴った実行」が求められます。そのため、最も重要なことは「判断基準のトレーニング」をし、子供たちが自分で考え、判断できるように誘導するのが、世界基準の指導方法となっています。  ですが、日本人の指導者はこの部分を鍛えることが最も苦手です。大多数がそのように指導されたことがないからです。これは指導者が悪いというよりは日本の教育の問題であり、インプットされていないことをアウトプットできるはずはないのです。


例えば、ドリブルひとつをとっても、顔が上がっているかどうか、左から敵が来ている時には右足でドリブルしながら、敵を腕でブロックできているかなどの細かい部分について、指導者は細かく指導してくれないことが大半です。私が観た小学生の選手でドリブルをしながら相手が来る方向の逆にボールを持ち替えてドリブルできる選手は100人に1人いるかいないかです。トレーニング時には1人のコーチが少なくても 10 人、多ければ 20 人ぐらい同時に観ないといけないこともあり、細かいところまで観ていられないのです。しかしながら、サッカー上達における決定的な部分は細部に宿るのです。
                

これまでにたくさんの親御さんと接する機会がありましたが、どんどんレベルが上がっていく子供の親には
共通点があります。それは「子供の主体性を引き出す力が高い」ということです。子供が自分からやりたいと思えるような仕掛けをするのは、親の大事な役割です。引き出し方は、それぞれの子どもの性格や環境によって違ってきます。
                

しかし、スタジアムであれば、自分で観るものを決められます。サッカーでは1人の選手がボールに触っている時間は、 90 分間の中でわずか2~3分しかないというデータがあります。つまり、それ以外の 87 分はボールに触っていない、いわゆる「オフ・ザ・ボール」の状態です。
                

日本ではボールを持っている「オン・ザ・ボール」のプレーばかりがクローズアップされます。ボールを持っている時だけではなく、ボールがない時にいつ、どの方角を見て、どういう風にポジション修正をし、いつ、どのように動き始めるのか、そしてギアチェンジのタイミングなど、サッカー選手にとって重要な要素になります。
                

スタジアムにサッカーを観に行ったら、子供がチームでやっているポジションの選手だけを一試合追いかけてみましょう。そして、その状態でできる限りボールの動きも同時に追うのです。最初は難しいと感じるかもしれませんが、慣れてくれば問題なくできるでしょう。ボールがないところでのポジショニング、ボールが移動していくにしたがって行う細かなポジション修正、ボールを受ける際の予備動作、マークを外す動き、味方への指示、相手とのいろいろな駆け引きなどなど、さまざまなことを行っているのが分かるはずです。そして、ボールをさばいた後、どこに向かって動くのかどうかということもチェックしてみて下さい。
                

1.ボールを受ける時は 80%ぐらいの確率で、ディフェンスの背中の位置(オフサイドの位置)から戻ってボールを受ける。ビルドアップ時は相手のディフェンスの視野から外れ(オフサイドの位置も多い)、落ちてくるタイミングを見計らっている 2.1.の動きをする時は、自分が受けるためと、自分が動いたスペースを味方に使わせるための動きの場合があり、後者の場合は必ずムニル(右FW)に使うべきスペースを手で合図していた 3.ボールを受けて、さばいた後の動き出しが非常に早い。パスを出したら、その足で動作に入っている 4.ディフェンスの際も、自分が追いかける場合は、追いかけながら、まわりの選手にパスコースを切る場所を合図している
                

ピッチ上の味方や相手の状況を把握し(認知)、その状況を判断し、どんなプレーをするのかを決めて(判断)、ドリブルやパスなどのアクションを起こす(実行)。言ってしまえば、サッカーというのはこの3つのプロセスをずっと繰り返し続けるわけです。ですが、日本では小学生年代で多くの指導者が「実行」の練習にフォーカスしているために、「認知」や「判断」といった練習がほとんど行われていないのが現状です。そのため、弊社でやっている個人戦術のトレーニングもプレー分析をした結果、「認知」や「判断」という部分のトレーニングが多くなっています。
                

サッカーでは技術を身につけることももちろん大切なのですが、それと同じぐらい、もしくはそれ以上に次々に変わる状況の中で、その場所へいつ、どのタイミングで、どのように動くかを判断することも大切なのです。これを身につけるには、実行の練習だけでは十分ではありません。実行のトレーニングをしたうえで、
                認知、判断のトレーニングをすることが重要なのです。

 

 

360.「蹴る・運ぶ・繋がる」を体系的に学ぶ ジュニアサッカートレーニング 池上 正

日本の常識、それは海外の非常識という例を紹介したいと思います。  日本の少年サッカーの指導風景でよくあるのが、いわゆる〝コーンドリブル〟をひたすら反復するというものです。それにより、ボールタッチの感覚や技術が身につき、彼らは「ドリブラー」と呼ばれる選手たちになっていきます。  しかし、本来サッカーは一人でプレーするものではありません。一人の個人技に特化した指導が、周りとの関係性を


うまく利用しながら進めるサッカーというスポーツにおいて、どれだけ有効なのか疑問を持たざるを得ません。
                

ドリブラー」と評される選手のサポートをしようとしても、いつこちらにパスが来るのかわからないのです。「今か?」と思って近づいてもパスは出てこない。「今は来ないだろう」と思って離れたときに限ってパスが来る……。残念ながら、日本の少年少女サッカーの現場でいわゆる〝テクニシャン〟と呼ばれる選手たちの大半は、周りの選手たちからすれば「サポートするのが大変だ」と感じてしまう選手に過ぎません。そのようにしか育てられていないのです。
                

日本の小学生や中学生が海外の有名クラブのキャンプに参加したときに、テクニックがある子どもが注目されることがあります。多くの子どもたちが足元のテクニックに優れていて、ヨーロッパの子どもたちを圧倒してしまうことがあります。  しかし、私からすれば、〝いらないこと〟ばかりをしているなあという感想を持たざるを得ないことが多いように思います。
                

ドリル形式のトレーニングにおける一番の問題点は、同じリズムになってしまうことです。たとえコーンやマーカーの距離をバラバラにしたとしても、1回、2回、3回……と繰り返してやるうちに子どもはそのリズムを覚えてしまうものです。となると、そこにどんな動きで向かってくるかわからない相手がいる試合では使えない技術になってしまうのです。  サッカーは相手がいるスポーツであり、相手がどう対応してくるのか、よく見て、瞬時に判断するスポーツです。身につけなければいけないのは、目の前で起きたことに瞬時に反応し、相手がボールを奪おうとするアクションを回避する              

ための技術であり、そのための動きであり、考え方です。毎回同じようなリズムのトレーニングを反復するのでは、それらを身につけることは難しいのです。
                

私がある高校のサッカー部を指導したときのことです。  初めて会った彼らがどのくらいのレベルにあるのか確認するべく、まず普段行っているシュート練習をやってもらいました。すると、ポスト役を使ったシュートのトレーニングでは、非常…

次に、ミニゲームをしてもらいました。しかし、ミニゲームになると彼らは途端にシュートを決めることができなくなったのです。彼らは、まさに今だ、というタイミングを判断しながらシュートを打つという習慣がなかったのです。普段から彼らは、シュートはゴールマウスのなかに力一杯に蹴り込むことを、まさに「ドリル形式」のように反復していました。その〝型〟以外のシチュエーションになったときに、途端にシュートを打つことすらできなくなったのです。…

ません。サッカーからドリブルやシュートだけを切り取った「ドリル形式」のようなトレーニングをしている風景が日本の育成年代には…

日本では、リオネル・メッシは最高のドリブラーと称されます。しかし、その表現で本当に必要十分でしょうか。メッシはドリブルで仕掛けながらも、常に仲間との繋がりを意識しています。パスで仲間を活かしたり、仲間からパス              

を引き出したりしながら、必要に応じてドリブルで突破を試みる。その瞬時の判断力と技術の高さがメッシが世界一のプレイヤーと言われるゆえんなのです。  一人でプレーするのではなく、周りと協力しながら賢くプレーできる選手を育てるにはどうすればいいのでしょうか。賢くプレーするというのは、子どもがサッカーを楽しみながらプレーできていることと同義だと考えます。状況に応じて、周りにパスをしたり、自分がパスをもらったり、必要に応じてドリブルで進んだりしながら、相手と駆け引きを楽しんでプレーできることが本来、目指すべき理想だと思います。
                

繰り返しますが、サッカーとは、仲間と協力しながらどう得点を奪うのか、が本質になります。仲間と協力しながらお互いに繋がり、賢く相手と駆け引きしながら、試合を進められる選手が、真の意味で、サッカーを楽しめる選手なのです。
                

2対1のなかに、相手をよく見る習慣、相手との距離感、味方との距離感や繋がり、ドリブルやパスやコントロールに関わる技術、といったサッカーを楽しく、賢くプレーするために必要な要素がすべて詰め込まれています。
                

日本の少年少女サッカーのこれらの傾向は、中学・高校、さらにはプロにおいてもピッチ上に顕著に出てしまってます。スライディングタックルはゴール前の危険なシーンの最終手段として使われるべきですが、日本ではトップクラスの選手たちも中盤で激しくスライディングタックルを繰り出す光景が見られます。これは幼少期からドリブルのトレーニングに象徴される1対1、その勝ち負けにこだわるトレーニングに時間を割いてきた弊害だと思います。
                

サッカーは陣取り合戦です。イニエスタは試合中に常に「相手」を見ながら「ボールがこう動いたのだから、相手はこう動く、だから自分はこうしよう」という視点で考えを巡らせながらプレーしているのです。  そうです、そこにあるのは常に「相手」の存在なのです。
                

2対1はシンプルですが、低学年(1年生から3年生) と高学年(4年生から6年生) とではレベルを分けるように工夫したほうが良いでしょう。  低学年の場合、攻撃側の二人で相手の一人をワンツーで攻略すること、これをベースにしてみてください。相手がボールを奪いに来たらパスを出して、相手が前に出てきたことで空けた背後のスペースでもう1回パスをもらう。こういったイメージを子どもに持ってもらうように導きます。
                

ボールを受ける前に見る、ボールが投げられたら見る、そしてボールをコントロールする。この一連の流れのなかで「相手を見る」ことができないといけません。  日本の多くの選手たちは、パスを受ける前は相手の位置を確認していますが、ボールが蹴られてから受けるときまでの間はボールしか見ていません。  一方、海外の選手たちはボールが蹴られた後の、ボールが転がっている間にもう一度相手の位置を確認することができるようにトレーニングしています。たとえば、相手が猛然とボールをインターセプトしようと動き出したならば、スッと1歩、2歩とボールに寄りながらパスを受けることで、相手がボールに向かってくる力を利用して逆方向を突けばいいのです。
                

ところが、日本の指導現場では「ボールを受けるときは、とにかくボールに寄ってコントロールしなさい」としか言いません。この指導の視点には「相手」が欠落しています。本来は、常に相手の状況を確認することが求められるのです。
                

世界のトッププレイヤーは、これらを当たり前のようにやっています。かつて名古屋グランパスで選手や監督として活躍したピクシーこと、ドラガン・ストイコビッチは、パスが出てくる前、そしてパスが出てボールが転がっているとき、さらに相手が身体を当ててコンタクトに来ているとき、3回も相手を見ているのです。ボールをコントロールしながらそれができるのです。  ストイコビッチは簡単に相手の逆をとることで余裕を持ってプレーしているように見えましたが、それは誰よりも相手をよく見ているからこそ、だったのです。どちらの足でボールを…

逆にいえば、日本の場合は「クローズドスキル」と言い、前述しているとおり、まずは一人でやろうとする習慣がついています。だから、相手を見ることが二の次になってしまう。本来は、最初から相手を意識したトレーニングをしたほうがいい。だから、1対…

バルセロナの試合を見ていても、メッシが一人、二人と交わしたときにはすぐさま近くにいる相手が身体を投げ出してでも止めにいっています。  まずは、ボールを奪うことを子どもたちに促してください。そうしているうちに、子どもたちが、どんなときにボールを奪いに行ったほうがいいのか、どんなときに奪いに行かないほうがいいのか、それらがどんどんと肌感覚でわかるようになっていきます。
                

サッカーは陣取り合戦です。理屈としては、ボールがこう動いたら、相手もこう動く。するとここが空いているからそこを突こう、といったふうにです。  2対1を作ったときに、もたもたと時間をかけていれば、相手ももう一人加勢して2対2になってしまうでしょう。ですから、3対2のなかで2対1の局面にできたときに求められるのは、まずパスのスピードであり、スピードを落とさずに前進できるコントロールの正確さです。
                

3人の真ん中でプレーする子はどうすればいいでしょうか。  当然、左右に首をふって両サイドにいる二人の仲間を頭に入れながらプレーしなければいけません。大変ですが、だからこそ能力が上がっていきます。真ん中でプレーするときにその点をずっと意識できる子どもは、自ずと視野が広がり、中盤の中央でもプレーできる選手になっていきます。
                

今、オランダから優秀なゴールキーパーがたくさん育っています。  オランダでは近年、ジュニア年代からゴールキーパーをつけた5対5のトレーニングに力を入れるようになってきました。現代サッカーにおいて必要性が増してきた〝足元のうまいゴールキーパー〟が育ってきているのは、4対4にゴールキーパーをつけたトレーニングを重視している賜物でしょう。  ドイツもオランダも、サッカーを大きな視点で捉えていて、将来こんな選手が育ったらいいな、という見方をもってジュニア年代から逆算した指導ができているのです。日本のように6年生のときに目の前の勝負に勝つことに躍起になっている状況とは180度異なり
                

フィールドプレイヤーとしてプレーすることで足元の技術は間違いなくうまくなります。ゴールキーパーにとって一番大事なのは攻撃センスだと私は考えています。キャッチしたボールを誰に配給できるのか。それを的確に判断し、実行することができれば、チームの攻撃局面を有利に導くことができます。しかし、日本のゴールキーパーの多くはこれができていません。その攻撃センスこそ、幼少期のフィールドでのプレー経験が必ず役に立つと私は考えているので、幼少期からゴールキーパーを固定で担うことに反対しているのです。
                

日本では未だに、ゴールキーパーがトレーニングにおいて足元の技術を重視することが一般的にはなっていません。  これはゴールキーパーの指導者の方には反対されるかもしれませんが、私はゴールキーパーのキャッチングの技術は最優先に身につけるべきものではないと考えています。  正しいポジショニングを覚える必要はあっても、キャッチングの技術そのものは特別ではないと考えます。至近距離からシュートを打たれる恐怖心に勝てる子どもならば、あとからでも十分に身につけられる技術だと思います。
                

それよりも、試合展開をどう読んでいるのか、いざチャンスというときのフィードや自身のポジショニングをどう考えればいいのか、それらを的確に表現できる力のほうがはるかに大事だと思います。それらはフィールドプレイヤーでプレーしたことがある感覚が必ずや活きてくるはずです。  日本の育成年代は、昔も今も残念ながら、悪い意味で変わっていません。たとえチームでもっとも運動神経がいい子どもが「ゴールキーパーをやりたい!」と懇願したとしても、たいていの場合は指導者に反対されて、エースのポジションを任される傾向が未だに強いと思います。  それが、チームが勝つために大事なことだからです。勝利至上主義が蔓延っている状況では、いつまでも、日本のゴールキーパーの育成は時代遅れのままでしょう。
                

ヨーロッパでは平日の週2回、1日 90 分間程度の練習時間を基本にしていますが、日本の場合、多くのクラブが土日しかサッカーができない環境にあり、1日に3時間や4時間も練習してしまうクラブもあります。  しかし、1日 90 分間の練習時間で十分であることを知ってほしいです。3時間も続けても子どもたちの集中が続きません。それにやるべきことが多いと頭には残らないものです。
                

強く言いたいのは、子どもにとってサッカーはまだ人生のすべてではないということです。サッカー以外にも、子ども同士で遊んだり、家族と旅行に行ったり、子どものうちにできる楽しいことがたくさんあるのだから、そこにも全力を注ぐべきなのです。
                

少年少女サッカーの世界は、本来、そうあるべきではないでしょうか。サッカー漬けで、サッカーしかやらない子どもが、本当に賢い選手になれるでしょうか。大人でも様々なことから受けた影響が仕事の役に立つことがあります。子どももサッカーがうまくなるために、本来は様々なことを体験したほうが良いのです。そうすると気づかない間に「あれ? これはこの前のあのやり方と似ている」といったように、サッカー以外の経験がサッカーで活きることがたくさんあることに気づくはずです。
                

最後に、私がこれまで見てきた〝伸びる子ども〟に共通していることについて触れたいと思います。それは間違いなく、流行りに無頓着な子どもです。バルセロナがキャンプを開催するとか、あの有名クラブがセレクションをしているとか、そういう情報にまるで無頓着で、自分が日々やるべきことに真摯に向き合っている子どもです。

 

 

359.サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質 才能が開花する環境のつくり方 菊原志郎、仲山進也

そうなりますね。チームは結果で一喜一憂しがちだし、もちろんそれはしかたがない部分もあるのですが、一番大事にする部分ではないと思うんですよ。結果を最優先にすると、いろいろなものが悪い方向に行く。  だから、 優勝するよりも2位からベスト8くらいがちょうどいいんです。経験も積めて、悔しさも残る。目的は、もっと先で勝って、そのあとの人生も幸せに送れるようになることですから。

 

まず先を見据えて、「1年後、2年後どうなっていたいのか」「どんなことができるようになっていたいのか」を考えることが大事です。そこから逆算すれば、「こういうことを意識して取り組んでみよう」と今やるべきことが見えてくる。  もちろん「今ここ」
                

失敗しても、足りないものに気づけたおかげで、自分は1年後、より大きくなれると思えれば、今日1日が価値あるものになります。  また、保護者も「何やってるんだ!」と責めるのではなくて、「ああいう失敗から学ぶことで、人は成長できるんだよ。今日の失敗を今後に活かそうね」と言えれば、「今日はよかったな」となりますよね。
                

早期に専門的にやりすぎると伸びない 志郎  伸びない理由といえば、今の子は早期に専門的なことをやらされすぎていると感じます。最初から完全に「競技」として取り組まされている。  そうすると、 型にはめられたり、叱られたりするのが早すぎるんです。それは、保護者もコーチも、子どもに結果を求めすぎるからです。どうしても勝ちたいから子どもに圧迫感を与えてしまう。近年、その傾向がすごく強いと感じています。
                

勝ち負けだけではなく、いろいろな価値観が認められる社会にならないとダメだと思います。保護者も「こうじゃなきゃいけない」という一つの価値観に縛られるのは望ましいことではない。今の保護者は、Jクラブの下部組織に入るのがプロへの近道だと考えて、クラブに子どもを入れるために「幼稚園のうちからサッカーをやらせないと」と盛んに言っています。  でも、意外とJ下部に小さい頃からずっといるプロ選手って少ないんですよね。中学や高校や街クラブで「お山の大将」をやっていた子がスッと入ってきて、そこからプロになって活躍するパターンも珍しくない。
                

だからみんな、ちょっと勘違いしているんです。J下部に入るのは早ければ早いほどいいと思ってるんですが、そうでもないケースもあるんです。早く入っていいクラブに行くと、自分のポジションだけ無難にやっていればチームが勝つから、それ以外のことをしようとすると逆に「余計なことをするな」と言われてしまう。どうしても分業になるので、与えられた狭い役割の働きしかしなくなります。でも、街クラブの中心的な立ち位置でやっていると、勝つためにはゲームの組み立ても、メンバーを動かすことも、シュートもアシストも全部自分で考えてやらなきゃいけないから、いろいろなことができるようになる。
                

─「一流企業に就職すれば安泰」と思ったら、歯車のような仕事で小さくまとまってしまう、といったパターンと似ている気がします。街クラブのほうは少人数のベンチャー企業で、みんながいろいろなことをやらなければいけないイメージと重なりますね。 志郎  だから、べつにJ下部だけがすべてじゃないし、むしろ街クラブでやっている子のほうが将来、何でもできる…
 
練習の総時間では、街クラブは少なくて週3回とか4回しかやっていないから…
もっと練習したいと思っている。一方、J下部のほうは練習をやりすぎて、半分疲れてサッカー…
サッカーは週2~3回しかやっていないです。ほかの時間は、空手、スキー、水泳、英語、キャンプなど、いろいろなことをやっていました。  そもそも日本テレビが主催していた「西山すくすくスクール」の夏キャンプに行って、そこに来ていた読売クラブのコーチに声をかけてもらえたことがきっかけで読売クラブに入ることになったんです。キャンプに行かずにサッカーばかりしていたら、今はなかったな(笑)。
                

日本の場合は教えられることに慣れすぎている選手が多いので、自分で学び、考え、実際に試行錯誤するという作業が大事になってくると思いますね。
                

まず一つは、 大人が子どもに「工夫しながら何かにトライすること」を要求しないからでしょうね。 本来、自分で考えて動いたり、仲間と「どうやって攻めようか」と作戦会議をしたりすることがサッカーの面白さなのですが、これまで日本の子どもたちはそういうことを要求されてこなかった。もしも、子どものときから、工夫しながらトライすることに対して、「そういうの大事だよね。実際、プレーが変わってきたね」と褒められたら続けると思うし、「余計なことをするな。指示されたことだけやってればいいんだ」と否定されてしまうと、工夫しちゃいけないんだと思いますよね。  二つめの理由は、 保護者も社会も、子どもにすぐ結果を求めることです。子どもにとって一番大事な作業はゆっくり考えて、じっくり取り組むことだと思います。 時間をかけていろいろなものをつくっていく、編み出していくということは非常に大事です。そもそも短時間でできることってすぐ忘れちゃったりして、そんなに大きな変化につながらないですよね。
                

勉強の成績そのものというよりは、学ぶ態度や姿勢などが重要であるということですね。 志郎   そう。伸びない子は取り組む姿勢に問題のある子が多くて。勉強にもサッカーにもつながるということですよね。
                

僕らはただサッカーを教えるだけじゃなくて、子どもの人生に何か、少しでもいい影響を与えたいという思いで取り組んでいます。だから、子どもたちの人生をよりよく変えられるこの「育成」という仕事は、お金を得る手段というレベルではなくて、本当に価値ある、大きな仕事だと思っています。
                

こういう結果を受けて、 今後はもっと遊びや駆け引きが必要だという意見が出てくるんじゃないかと思っています。遊びや駆け引きから生まれてくるものを楽しみながらレベルアップできるのが、子どもにとっては一番いい形だと思います。
                

基本的にはそうです。日本サッカー協会が2008年度から、サッカーにおけるリスペクトの意識を広めようと、リスペクトプロジェクトを開始しました。そのなかの「フェアプレーとは」という項目で、「相手に敬意を払う……相手チームの選手は『敵』ではない。サッカーを楽しむ大切な『仲間』である。仲間にけがをさせるようなプレーは絶対にしてはならないことである」と定めたんです。
                

小学生からずっとサッカー漬けじゃないどころか、サッカーをちゃんとやり始めたのは 16 歳からで、それでワールドカップに出ている。  やはり、サッカー以外にいろいろなことを経験したのがよかったと思います。サッカーもクラブでちょっとやりながら、ほかにもいろいろな運動をしていたと思います。 16 歳からでも日本代表に間に合うという好例です。
                

一人の選手が失点の責任を全部背負わされると、苦しいじゃないですか。だから、僕はいつも子どもたちに、「だいたい失点は三つか四つのミスが重なって起こるから、一人の責任じゃないよ。みんなが声をかけ合ったり、一人ひとりがポジションを修正したり、自分ができることを少しずつプラスしてやったほうがいいんじゃない?」「この失点は一人のミスじゃなくてチームとしてやられたよね。ここでもう少しみんなで何かできて
                

教えたくなるのは、知識量が中途半端に少ないときだと思います。そういうときって、もっている知識を全部出したがる。逆に知識が多い人は「全部は教えられない」と悟っているから、相手の準備ができたときに必要なことを伝える感じになります。
                

あと、 チームプレーを重視するという点では「ミスを他人のせいにしない」ということを伝えます。ミスを他人のせいにするとどうなるかを考えてもらうんです。 みんなでちょっと考えれば、「自分がうまくならないし、相手も嫌な思いをするので、関係も悪くなっていく。結局、個人としてもチームとしてもうまくも強くもならない」ということが理解できます。
                

サッカーって、五分と五分だと人間性とか考え方で差が出るんですよね。だから、1月に中国へ行ってからそういったことをずっと言い続けて、考えるきっかけを与えていました。そうしたら、9月くらいから子どもたちが変わり始めた。
                

次に「優先順位」の理解です。 味方の位置、相手の位置、戦術とか試合の流れなどを考えて、どの選択肢が有効かを決めます。そのために大事なのはロジックです。判断基準に照らして、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを比較します。   その基準として大事なのは「相手の思考」です。相手が予測しやすい選択肢は、うまくいかない可能性が高い。逆に、予測しにくい選択肢を選ぶことができればチャンスも大きくなりますよね。だから、常に相手は何を考えているだろうかということを意識しておく。
                

結局、「なんのためにサッカーをやっているのか」という話に行き着きますね。 志郎  ヨーロッパの人たちは遊ぶために一生懸命働きますよね。でも日本人は違う。 ──怒られないため、評価を下げられないために働くという人が少なくない。志郎さんは「子どもの人生によい影響を与える」のが働くモチベーションということですよね。

 

 

358.間違いだらけの少年サッカー~残念な指導者と親が未来を潰す~ (光文社新書) 林 壮一

指導者にとって、一番大事なのは、やはりバトルさせることですね。戦う気持ちを子供たちに植え付けさせるのは、指導者です。その指導者が教え過ぎず、自分の型に 嵌めず、純粋にサッカーをやらせることが必要だと。日本は教え過ぎですね。花も水をやり過ぎると奇麗に咲かないでしょう。自分で考えさせ、判断させ、それをピッチで表現できるようにならないと、選手は伸びません。サッカースクールをハシゴするような環境も、僕は良くないと思います。もっとサッカーを楽しんで、遊びの中から色んな発想をすることが少年時代は大切だと思います」


サッカーへの情熱を消さないように、技術を身に付けさせたいと考えますね。教え込み過ぎず、自分の発想で状況判断しろという部分を大事にしています。 小学生ならどんなレベルの子も、とにかくサッカーが好きで、毎日ボールを触って、自分の思うように自由にボールを扱える技術を身に付けることが大事です。 そして、その技術をどういうシチュエーションで出せるか、状況判断を磨いていくのが一番かな。
                

日本の子供たちは練習のし過ぎだと思うけど、それは文化だからね。僕からしたら、日本の文化は全部がやり              過ぎ。勉強し過ぎ、働き過ぎ、練習し過ぎ。日本人はフィジカルが弱いからトレーニングしなきゃとか言うけど、関係ない。今、世界で一番上手いメッシだってフィジカルないじゃん。頭の中の問題だよ。心が強ければいけると思う。メッシは小さいけど、心が強いからトップにいるよね。  日本人に足りないものはメンタルだね。自信がない国民だもの。メンタルを鍛えるのは基本的に無理よ。絶対に作れないものだよ。サッカーに限らず、南米の選手は自信があるよね。仕事も学校もナンパするのも、自信あり過ぎ。日本はそんな文化じゃないでしょ。全然違う。いつも『すいません』って言ってる国民だもの。何に対してもビビってるし、迷いがあるじゃない。決断に何時間もかかるしね」
                

日本はカーナビがどこまでも連れて行ってくれる。指示を待ってればいい。野球が文化になったのも、そういう感じでしょ。監督の指示通りに動いていればいいスポーツだもん。サラリーマンも上司の指示に従っていればいいんだよね。野球は合うけど、サッカーは日本の文化に合わない。日本人は言われたことはできてもクリ
                エイトする能力が無いんだ」
                

自分より上手い人とやっていくと、競技者は伸びるんです。上のレベルを与えてあげると、人ってそのレベルに近付こうとします。 やっぱり人間っていうのはいい環境が大切ですから、それを与えてあげるのは大事なことだと思いますよ。許されるなら、どんどん上の年代とやったらいい。ただ、遙かに上の人っていうのは、ボディコンタクトで潰されて怪我に繋がります
                

「日本は教え過ぎです。勝つためのサッカーを、あまりにも小さい時からやらせ過ぎている。だからチームとしては育つけど、個が育たない。上手い選手はいるけど、強い選手がいないでしょう。
                

あってコントロールがあっても、バットで捉えた時のパワーには負ける。やっぱり体ですよ。日本人って小っちゃいもん。厚みもないし。で、筋肉を付け過ぎると 90 分走れないとか言うじゃないですか。外国人は、あれで 90 分、もっとスピードを付けて走っている。その差だと思いますよ。日本人は小さくて、直ぐ吹っ飛び
                ますもん。グラウンドで倒れていたら勝負にならないですよ。体幹の弱さ、体の違いで世界に追いつけない。日本は足元が上手いとか、何だかんだって言っていますが、 足元が上手くたって、ボールが前に進まなかったらどうしようもないだろう
                

俺は上手いんだぜってトップに出て、大成しないで挫折していくよりも、 我慢して一歩一歩上り詰めてゲームに出ていく人間は、ずっとサッカー好きでいるでしょうし、本当に強い選手になっていきます。 親がサポートする、育てるって、そういうことですよ」
                

最後にサッカーを愛する我が子をサポートする全ての親に向けて、高木は話した。 「子供たちから楽しみをもらっていると思って感謝しながら見ましょう。それが子供に伝わる。親が楽しみにしているって理解する。親が感謝してくれていることも分かってくる。そうしたらもっと親を喜ばせようと何かしなきゃいけないって感じる筈です。だから、褒めてあげましょう」
                

ハートの強い選手じゃないと、上には行けません。メンタルの強さが成功の鍵です。テクニシャンだとか、フィジカルがあるとか、足が速いとか何よりも、強いハートを持った選手が一番伸びますね」

 

 

357.少年サッカーは9割親で決まる 島沢 優子、池上 正

多くの大人は、何かつらいことや厳しい自主練習を自分に強いる子が伸びる。だから、つらいことをやらせなきゃダメ

と思っているようですが、まったく違います。  そして、 子どもがそのように自発的にやるときのエネルギーの源は、「サッカーが好き!」「サッカーが楽しい!」というパッション です。人は好きなことをしているときが、もっともドーパミン(集中ホルモン)が分泌されるのですから。
                

実際にお会いしたことはないので断言はできませんが、ご相談の方の息子さんのような子どもは増えているようです。いわく、なるべく強い子とはやりたくない。いつもほどほどのレベルで目立っていたい。そのように「ぬるま湯」の環境を好む子はよくいます。  例えば、かけっこはタイム別。算数の少人数クラスなど何事もレベル別になっているため「大きく負ける」体験ができません。要するに、負けることが当たり前とか、負けることだってあるさという「負けることへのタフさ」が、今の子どもには欠けている ようです。  これは、兄弟が少ないとか、負けそうになるとリセットボタンが押せるゲーム機に慣れてしまっているのも、理由のひとつかもしれません。  それでは、そういった部分をどうすれば改善できるでしょうか。  それには、まず 親のほうが負けることにタフになる こと。もっと言えば、わが子が負ける姿を目にしても、揺らがないこと。出来が悪かったり、ミスしたり、試合に負けても、見ている親が感情的にならないことです。
                

「今日は負けたけど、次があるよ」 「ドンマイ! 次、がんばればいいよ」  そのような声をかけてあげてください。そして、試合でうまくいかなくても、目を覆ったりせず淡々と見守ってあげましょう。  そんな親御さんの態度こそが、徐々に子どもをタフにすると思います。
                

「サッカーが楽しい=うまくなる」だと私は思うのですが、日本ではまだまだ「楽しくやっているだけではうまくならない」と思っている指導者が少なくないのが現状です。チームがどんな感じなのか書かれていないので何とも言えませんが、もしピリピリした雰囲気ならば、家では「楽しくやればいいんだよ」と言ってあげてください。
                

それとは逆に、 スポーツでも勉強でも、自分から「これをやろう」と思って動き出すことが実は大切です。自分から「もっとうまくなりたい」「変わりたい」と思ったときに、初めてそうなる可能性が生まれます。「自主練習をやりなさい!」といわれ受け身でやっている間は、その可能性さえないと考えてください。 子どもが自発的にやったことでしか、本物の成長は獲得できない と私は思います。
                

私は拙書『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす 11 の魔法』(小学館)で、サッカーをやってきた大人は「危ないコーチ」と書きました。自身の経験をベースにして古いやり方で指導しがちなので、子どもをつぶしてしまう可能性が高いからです。その次に危ないのは、他のスポーツをしてきた大人です。  まずは自主性に任せて見守る。そして、プロという目標以外に、サッカーをすることで子どもが何を獲得していくか。人として成長するかという点に一度着目してみてください。
                

最後に。4年生が5キロのランニングなどしては体に悪いですよ。こちらはすぐにやめさせてください。体の成長を阻む「活性酸素」についてご存知でしょうか? 運動をやり過ぎると体内にたまってしまいます。また、何よりも、サッカーは陸上競技ではありません。
                

小学生で走り込みやマラソンなど必要ありません。そんな時間があるのなら、 サッカーボールを使った遊びをしたり、質の高いサッカーを観るほうが上達につながります。
                

 最後に、ひとつ言わせていただくと「リフティングがうまくなると、サッカーは下手になる」というのが私の持論です。以前このコーナーでもお伝えしました。その理由は、ひとりでずっと1個のボールを注視してリフティングをするという動作を繰り返す時間のなかでは、「周りを見る」ということを覚えないからです。練習の時間は決まっています。千回行うと 10 数分ほどかかるでしょうか。練習時間内に一人でリフティングをさせるなら、その時間にミニゲームをやったほうがはるかに上達すると私は考えます。
                

まずはお父さんに、オーバートレーニングの弊害が詳しく書かれてある本を読んでもらう、もしくはお母さんが読んで説明してあげてください。ジュニア期においていかにオーバートレーニングがいけないことかの論拠を示して、納得してもらうのです。運動をやりすぎると体内に活性酸素が蓄積され、低身長のリスクが増えるなど多くのマイナス面があることを知ってもらいましょう。もしくは、香川選手など現在活躍する選手の少年期について書かれた本を読んでもらう。多くの選手が自由で放任されて育っています。
                

もFWだったので、現役時代はオフサイドにかからないための練習や工夫をずっとやってきました。それには動きのコツをつかんでいくことが肝心です。  例えば、一度相手ディフェンスの背後に引く(ブラインドに隠れる)ようにしてから、スペースへ飛び出すこと。何も考えずに相手の前(ボールサイド)に出てしまうと、相手が自分の背後にいるため、自分がオフサイドの位置にいるのか、いないのかがわかりません。  ですので、前線やスペースに飛び出そうとする場合は、必ず相手の背後に立つ。そこで飛び出してはターンをして、また相手の背後に戻ってくる。そのような動きを8の字を描くように繰り返します。そのようなことを理解しているのかどうか、一度お子さんと話してみてください。
                

ついでに申し上げておきますと、 子どもの試合を観戦するときのサイドコーチングは慎みましょう。 「オフサイドライン、見えてる?」「ほらほら、そこはオフサイドだぞ!」  そのように声をからして言葉をかけている親御さんやコーチの方をよく見かけます。審判へのヤジはもちろん              

ですが、子どもたちへのコーチングは少年サッカーではタブーです。他にも、「そこ、勝負!」とか、「シュート撃て!」とか「逆サイド見て!」などといった指示にあたる応援は絶対にやってはいけないことになっています(みなさんルールを破っていますが)。
                

また、サッカーボールは、怖がって逃げているとかえって当たったりして痛い思いをしますが、追いかけていくと当たらないものです。「危険の伴う練習はしてほしくない」と書かれていますが、そういうものではありません。スポーツですから、ボールが当たって泣くこともあります。
                

リフティングの指導法を尋ねられているのに、申し訳ありませんが、 私はひとりで黙々と何百回もこなすリフティングは必要ないと考えています。
                

その理由は、ひとりでずっと1個のボールを注視してリフティングをするという動作を繰り返す時間のなかでは、「周りを見る」ということを覚えません。「リフティングがうまくなると、サッカーは下手になる」は多少             

大げさかもしれませんが、根拠がないわけではないのです。
                

「リフティングでは、サッカーに必要な集中力は養えない」それが私の結論です。
                

思えば長男がサッカーを始めてから 10 年間、ライターという職業を活用し、優秀といわれる指導者に「子どもを伸ばす親ってどんな親ですか?」と尋ね続けてきました。すると、全員が異口同音に「干渉せずに見守る親」と答えました。反対に、子どもの成長を阻むのは「過干渉で必死な親」でした。
                

お父さん、お母さん。わが子を伸ばしたいのなら、親が必死にならないことです。ゆったり構えて、冷静に。冷静になってどう考えるかのヒントは池上さんが教えてくださいます。 「9割僕たち(私たち)の責任なの?」と憤らずに、ぜひ発想の転換を。  サッカー少年(少女)の成長が9割親次第ならば、私たち親が子育ての本質を見極め行動すればいいのです。  その本質は、この本にあります。

 

 

356.伸ばしたいなら離れなさい ~サッカーで考える子どもに育てる11の魔法~ 池上正

「みなさんはお子さんをプロにすることを目指していますか?」   10 年前、講演で尋ねると参加者のほぼ全員が手を挙げていました。  今は手を挙げる人がほとんどいません。徐々にプロの厳しい現実が理解されてきたからかもしれません。何しろJリーグの平均引退年齢は 25 ~ 26 歳。プロ入り後、出場試合ゼロで引退する選手は毎年3割存在するのが現実です。


親御さんも、子どもも、「サッカーはコーチに教えてもらうもの」という感覚が強いようです。なぜ強いかといえば、学校や家庭では「大人の言うことを聞く子ども」が最も認めてもらえるからだと思います。よって、指示があるまでぼんやり待っています。教えてくれるまで何も考えません。  それよりも、「自分でつかむ」というイメージで向き合っている子どものほうが断然伸びます。例えば、ほかの仲間がコーチから言われたアドバイスを耳にした子が「これは僕もやったほうがいいな」と気づいて、同じことをやってみる。このようなアンテナが立っている子は、そうでない子と比べると、早く太く成長します。これは、サッカーでも、勉強でも、何事も同じでしょう。
                

ただし、わが子がミスをしたとき、どうするか。そこに一度注目してみてください。もしお母さんやお父さんのほうをちらりと見たり、顔色をうかがうようなそぶりがあるのなら、しばらく観に行くのをやめましょう。期待にこたえたいから、親御さんの前で失敗するのが怖いのかもしれません。たくさんミスをして上達するスポーツなので、親がそこにいるだけで逆効果になってしまいます。
                

「池上さ、子どもにとっての遊びって、何だかわかる?」  私が「楽しみ。ルールまで自分らで決められるような楽しい遊び」と答えると、目尻を下げて言いました。 「おまえ、隊長失格やぞ。子どもの遊びには、そこに大人(指導者)がいないほうがいい。それが子どもの遊びだ。少年サッカーもそうなるべきだ。大人は消えなきゃいけない」  安全管理やメニューを出す役として、大人は1人でよい。でも、何かを教え込むのではなく、あくまでも楽しく自由に遊ばせることが最大のテーマです。そこで子どもがたとえ100人いても、大人は1人で指導することにしました。
                

大人がその場にいないほうが、子どもは成長します。子どもは評価を気にせず、失敗を恐れず自由に活動できる。指示がないので自ら動く。誰かがけんかをすれば誰かが仲裁するなどして、コミュニケーション能力を磨きます。おとなしくて仲裁できなくても「そのドラマをみる」ことが未来につながるのです。
                

オシムさんの著書『急いてはいけない 加速する時代の「知性」とは』のなかに、「選手たちにはサプライズが必要だ」という言葉がありました。  急に練習場所を変えたり、開始時間を変えたりもしょっちゅうでした。 24 時間、選手やスタッフを試し続けている。そうやって「考える力をつけろ」と伝えているのだと思いました。
                

「サッカーのやり方を教えるのではなく、試合することを教えなさい」  まさしく、祖母井さんが言った「大人は消えろ」の視点でした。試合は子どもだけでやるから、大人は審判以外は登場しません。  私がうなずくと、こう付け加えました。 「子どもたちは戦術とかそんなことではなくて、試合から学べることがたくさんある。日本人は練習好きだが、もっと試合をしたほうがいい。それと、できるだけ若いときから、2対1や3対2などの数的優位の練習をたくさんさせたほうがいい」  帰り際、手を振りウインクしながら言いました。 「とにかく、試合をさせろよ」
                

私が訪ねたレバークーゼンのコーチは言いました。 「子どもに必要なのは試合だ。たくさん実戦経験を積ませたほうがいい」  ああ、オシムさんの言った通りだ。  私のなかで、2003年にジェフが当時練習場にしていた市原姉崎グラウンドの隅で聞いた言葉が蘇ってきました。 「とにかく、試合させろよ」
                

例えば、「個を育てる」にはどうすればよいか?  これは以前、ケルン体育大学で学んできたコーチに聞いた話です。 「個を育てるためにと、個人練習をたくさんすると、実は危険なことがたくさん起きる」  それは何かといえば、個人練習に時間を費やし過ぎると「他者を感じられない」選手になると言います。チームで試合をしたときに、味方が次にどうしたいか、どんなことをすべきか。そんなことを感じられなくなる。感じられなくなるというよりも、他者を感じる訓練ができないといったほうが正確かもしれません。  よって、ドイツはさまざまな研究やデータ分析の結果、ミニゲームを中心に、常に全員で、もしくはグループで行うメニューに切り替えました。
                

います。  それなのに、ミニバスケットのドリブル、少年サッカーのリフティングなど、練習メニューにひとりでやるものが多いです。バスケットのドリブルも、サッカーのリフティングも二人以上でやるような工夫はいくらでもできるはずですが、多くの人たちが過去の練習方法をそのまま踏襲しているようです。  前章で伝えたドイツの育成改革は、ミニゲームを中心に、常に全員で、もしくはグループで行うメニューに切り替えました。  個人練習に時間を費やし過ぎると「他者を感じられない」選手になるリスクが高いからです。味方が次にどうしたいか、自分はチームのためにどう動いたらよいか。そんなことを敏感に感じ取る訓練ができません。
                

良いプレーをしようが、悪いプレーをしようが、必ず認めてもらえる。  そんな環境にいる子は、どんどん上達します。常に前向きになれ、萎縮せず、自ら考えてトライするからです。
                

いつも声をかけて 煽るのがコーチの仕事。これが、サッカーを含む日本のすべてのスポーツにおけるコーチのイメージになっています。教えることが当たり前。いつも何か言わなければと、悪いところを懸命に探しています。  このような大人の姿は、海外の人にとって異質なものに見えるようです。
                

 よって、「鍛える」のイメージは、何か苦しい練習をやらせたり「このままじゃおまえはダメになるよ」とって煽るものになりがちです。  私は、それよりも、鍛えることイコール「刺激する」というイメージのほうがいいと考えます。  欧州のように、勝ち負けのあるゲームをどんどんやらせる。そうすると、勝つために頑張る子が育ってくると考えています。
                

子どもが試合の前に極度の緊張状態になってしまうなら、それは周りの大人の責任。質の高い刺激をせずに「勝たなくてはダメ」「うまくプレーしなくてはダメ」と子どもたちに伝えています。  子どもは勝ちたいので、緊張するのは当然です。  そこを大人が「楽しくやろうね」と笑顔でいれば、子どももそうなります。
                

これをもっと広くとらえると、日本の少年サッカー全体がすでに「やり過ぎ」です。そこを是正していくのも大人の出番になります。
                

少し異なるフランスは5時間授業で4時半や5時くらいまで学校にいますが、昼休みが2時間あるのが特色です。その2時間は昼食が終わったあと、何をしてもいいので、ボールを蹴って楽しむ子が多い。放課後にクラブの練習に行きますが、平日は週2回程度しかやりません。
                

一方、日本の子どもたちはクラブを掛け持ちしたり、所属以外にサッカースクールへ練習に行くので、中学、高校の部活動以上に体を酷使している小学生が少なくありません。3年生で年間150試合以上というチームも少なくないようです。
                

デンマークサッカー協会が掲げた「指導の 10 か条」です。これを読むと、大人の出番はそんなにないこと、子どもと離れることの重要性に気づきます。
                

① 子どもたちは、あなたのモノではない。② 子どもたちは、サッカーに夢中だ。 ③ 子どもたちはあなたとともに、サッカー人生を歩んでいる。④ 子どもたちから求められることはあっても、あなたから求めてはいけない。⑤ あなたの欲望を、子どもたちを介して満たしてはならない。⑥ アドバイスはしても、あなたの考えを押し付けてはいけない。⑦ 子どもの体を守ること。しかし、子どもたちの魂にまで踏み込んではいけない。⑧ コーチは子どもの心になること。しかし、子どもたちに大人のサッカーをさせてはいけない。⑨ コーチが子どもたちのサッカー人生をサポートすることは大切だ。しかし、自分で考えさせることが必要だ。⑩ コーチは子どもを教え導くことはできる。しかし、勝つことが大切か否かを決めるのは子どもたち自身だ。