164.借入は減らすな! 松波竜太

悪と考えるべきなのは赤字であって、借入ではないのです。  企業が倒産するのは借金が多いからではなく、現預金がないからなのです。  それならば、銀行借入をうまく利用して現預金を厚くして、予期せぬ事態にも対応できるようにすることで、経営は安定します


現預金を持っていることこそが信用につながるのです。  そして現金は借入で調達したものであっても評価はまったく変わらない、むしろ借入のほうが評価が上がります

 

例えば、借入金ゼロで預金1000万円の企業と、借入金3000万円で預金4000万円の企業では、実質は変わりませんが、銀行が評価するのは

後者の企業です。  現預金が多いのに加えて、「どこかの銀行が融資をした」ことが信用になるからです

 

銀行には3つの行動原理があります。   ①お金がないところには貸さず、お金があるところに貸したがる ②借りたいと言ってくる企業を疑い、もうよいと言っている企業に貸したる ③「右にならえ」が大好きで、「他行が貸すならうちも貸す、他行が引くならうちも引く」    この3つを押さえると、銀行交渉を有利に進めるためにすべきことは、次の2つの方法に行きつきます。

 

・銀行にとって「貸さないと損をする」と思われるようにする

・「他行も貸したがっていて、貸さないと他行にシェアを奪われる可能性がある」と思われるようにす

 

紹介を受けることが難しく、過去に取引した銀行も難しいようであれば「日本政策金融公庫(国民生活事業。以下日本公庫)」または「地銀の県外支店」に打診をしてみることをおすすめします。

 

 日本公庫は条件さえクリアしていれば融資の実行可能性が高く、県外地銀はアウェイで辛酸をなめているので、交渉の当て馬に使われることに慣れています

 

次に、株主・役員等からの借入がある場合に、「金融機関からの借入とは独立して表示されているか」を確認しましょう。  独立表示とは、役員からの借入を「役員長期借入金」、銀行からの借入を「長期借入金」という風に分けて表示することです。  銀行は、役員・株主からの借入で短期に返済しなくてよいものは、「資本」とみなすよう金融庁から指導を受けています。  資本とみなされると「返さなくてもよい資金」ということになり、「負債=返さなければならない資金」と見られるよりも有利になり、銀行からの評価が上がります

 

言い換えると「融資を受けられる額は払った税金の15〜30倍」です。  例えば、年商1億2000万円、借入2000万円の会社で、役員報酬を引く前の利益が1533万円だとしたら、333万円の経常利益が必要となるので、役員報酬は1200万円、つまり月100万円に設定すればよいわけです

 

ところで、「法人税アレルギー」を持っている経営者をよく見かけますが、今の税制では「所得税(住民税含む)+社会保険料(含む企業負担分)」は法人税より高いことをご存じでしょうか

 

社長の取り分が減るのは役員も文句はないだろうと「代表者の役員報酬」を引き下げる場合がありますが、そうすると「代表者の保証能力も低下」するので気をつけてください

 

つまり、代表者は借入相応の役員報酬をキープする必要があるということです

 

そこを誤ると【赤字になりそうだ→役員報酬を引き下げれば赤字が回避できるかもしれない→役員報酬引き下げ→保証能力低下→担保か第三者保証をお願いします】という最悪な流れになってしまう可能性があります。  

 

すぐにできるからと「役員報酬の引き下げ」を考えがちですが、安直に考えず、借入に対する保証能力とのバランスに気をつけていただきたいのです

 

借入をするには、「これぐらいは出しておかないと勝負にならない」利益が存在します。  借入で上手な資金繰りをしている経営者は、「これぐらいは利益を出しておかないと回らないでしょう」という感覚を必ず持っているものです。  しかも、ほとんどの場合、法人税で支払うか個人の所得税で支払うかの違いに過ぎません。  この違いが、資金繰りに余裕を生むか、そうでないかの違いに大きく影響します。    

 

ですので、法人税を「必要経費」と考えるように、つまり、「税引後利益を○○円確保しなければならないから、税引前利益は○○円必要だ」という思考をするように、早めに頭を切り替えてください

 

日本公庫からの融資も、保証協会付融資も、無担保の場合3%弱の年利となるのが一般的です。  

 

保証協会の保証を受けず、土地や建物などの不動産を担保提供することで受けられる融資が、プロパー融資の代表的な形態です。  銀行からの信用が高い企業はプロパー融資を受けることができますが、反対に開業から間もないなど、信用力の低い企業では受けることが難しいのが現状です

 

代表者は基本的に借入の連帯保証人になる必要があります。  一般的に借入は、担保があると金利が1~2%程度下がります。  また、不動産購入資金の融資の場合、その土地や建物に担保(抵当権)を設定し、建物の火災保険にも担保(質権)設定するのが普通です

 

また、担保として差し入れることができるものには、預金担保・不動産担保・有価証券担保などがあります。  株券や国債などの有価証券を担保に差し入れることが可能な場合もありますが、一番銀行が評価してくれる担保はいまだに不動産です

 

「業績がちょっと落ちたかな……」というときに、「根抵当権を設定しておくと、借入のたびに抵当権を設定しなくてよいので便利で、抵当権設定費用を考えると経済的ですよ」とすすめられることがあるようです。  しかし、これが厄介者で、根抵当権は一度設定すると、「その銀行に関わる借入のすべてを返済」しない限り外せなくなってしまうのです。  これがどう影響するかというと、根抵当権を設定していない銀行からすると、根抵当の担保枠の分だけ担保価値を低く見なければならなくなってしまうので、新たな銀行が参入しにくくなってしまうことになります

 

また、一度設定すると、借入を全額返済するか、承諾を得るまで解除できませんので、「無担保融資」さえ有担保と同じことになってしまいます。  ですから、根抵当でないと借りられないという場合でない限り、面倒でも抵当は「根」のつかない形で提供していただきたいところで

 

最後になりますが、抵当権は「外してくれ」とこちらから言わないと、住宅ローンでもない限り銀行から積極的に外してくれることはないので注意しましょう。  ことあるごとに「抵当を外す努力」をしてください

 

脅すわけではありませんが、ここで銀行担当者が企業に来てくれるか、「支店(窓口)に来てくれ」と言われるかで、融資が受けられるかどうかがほぼわかります。  後者の場合、7割くらいの確率で融資を受けられません

 

また、あとになって銀行担当者から「書いてください」と要求される書類が多ければ多いほど、融資の実行可能性が低くなるのが一般的です。  要求される書類が多いのは、美味しい取引でないので銀行担当者が稟議書を書くモチベーションが上がらない、または、融資理由のイメージがしっかりわいていないということです。  スムーズにいっている場合のやりとりはだいたい電話で行われます。  逆に、もう一度会社に来たいと言われた場合、融資できないことの「お詫び」である場合が多いので、覚悟を決めましょう

 

つまり、保証協会を使っている場合、こうした事情を考慮して「交渉がうまそうな銀行担当者のいる銀行を優先して申し込む」ことが大切なのです

 

効率よく営業するために、「取引がなくて審査の通る可能性が高い企業」を探して営業します。  その最も効率的なものが、帝国データバンクなど企業調査会社のリストによる選定であり、帝国データバンクに評点をつけてもらうこと自体が銀行対策になるのです

 

対銀行で考えると、帝国データバンク東京商工リサーチには決算書を渡して事実を登録してもらうべきです

 

銀行借入は「折り返し融資」を受けるのが前提となります。  折り返し融資とは、例えば1000万円借りたとして、3年たって600万円返したら、また600万円を補充してもらうように再融資を受けることを言います。  特に日本公庫の場合は3分の2を返済し終わると「折り返し融資のご案内」が届くのが普通です。  つまり、「返済期間5年」は1つの目安であって、「この期間に全額返済する必要がある」または「全額返済するまで新たな借入はできない」と考えるべきではないということです

 

銀行借入というと借金のイメージが強いのですが、間接金融が主流の日本では、借入は「単なる借金」ではなく、銀行からビジネスモデルの審査を受けた、資本金に代わる正当な資金を意味します。

 

 ですから、銀行にビジネスモデルや決算書を提出・説明するのは、上場企業が株主総会で株主に対して業績等を説明し、資金調達するのと同じことと考えるべきなのです

 

さらに試算表の作成頻度等を説明して、計数管理レベルが高いことをアピールすることも忘れないようにしましょう。  

 

また、決算書に載らない簿外資産(例えば保険の解約返戻金)がある場合には、実際の数値を交えて、ここでアピールしておくことを忘れないでください。  特に審査

「自行以外の○○銀行の金利が○%と低いのはその会社を高く評価しているから」という論理が働き「単に金利という費用を減らす」以上の効果をもたらすことにつながります

 

また、直接他行の金利を教えない場合(実際教えないほうが有利な場合が多い)、銀行は決算書の「支払利息÷借入金」で平均利率を計算して他行の利率を予測して営業します。  

 

政府系金融機関を除いて、一般的に銀行は言われない限り、自分から利率を下げましょうと言うことはありません。  また、こちらに何の情報もないことがわかると、知らないのをよいことに、無理な理屈をつけて高い金利を取ろう、または維持しようと図ります。  

 

その前に、前提として「保証協会付融資(制度融資)はどの銀行を通しても、金利、保証料率ともほぼ一定で、銀行に競わせる性質のものではない」ということを押さえておいてください

 

でいくら残します」と言うと、銀行にしてみれば、例えば1000万円を貸し付けて金利1.5%(利息年15万円)にしても、預金残高が700万円あれば、実質的には300万円の貸出に対して年利15万円を受け取っていることになるので、5%(15万円÷300万円=5%)の利息を受け取っているのと同じことになります。  つまり、借入額と預金残高の差が小さいほど、預金残高が多いほど、銀行としては利益率が高くなるわけです。  

 

さらに、実質を見る際に、「個人の預金」や「取り立て依頼に出した受取手形」を実質的な預金と見てくれる銀行とそうでない銀行がありますので、この辺りも主張し、有利に進めたいところです。  気の利く銀行担当者であれば、そこを押して、上司や本部と掛け合ってくれるのですが、うっかりということもあるかもしれませんので、しっかりと主張しておくことが重要です

 

財務内容のよい企業にとっては、保証協会付融資は金利が高い上に、保証料を取られるのでよいことがありません

 

また、銀行担当者にとって、請求してもいないのに試算表を毎月くれるお客さんはそんなに多くありません。  ですから、「熱心な会社」と考えてくれて、よくしてもらえる確率は高まります

 

本当に味方になってくれると、行内で頑張ってくれるばかりでなく、他行との交渉にも関与してくれます。  一朝一夕とはいきませんが、このような関係を構築することが可能であるということを知っておいてください。  そして、そこを目指すことが大切なのです

 

銀行の支店には「支店長決裁枠」があります。  支店の大きさによって額が決まっており、信金の場合で1000万円前後(少ない支店では300万〜500万円)、地銀や日本公庫では3000万〜8000万円程度といわれています。  ほかにも、融資が銀行担当者(貸したい人)が中心となって行うタイプ

 

の仕組みが異なり、キーマンも違います。  できれば担当者と仲良くなって、こういった情報を引き出しましょう。作戦が立てやすくなります

 

さらに、補足ですが、支店長・担当者はほぼ引き継ぎなく異動になります。  これは不正防止のために必要で、仕方がないことなので、一般企業のように引き継ぎがされていないことに腹を立てないように注意しましょう

 

それは、売上が増えると現預金は減るということです。 「働いても、働いても、ちっとも楽にならないんだよな」という話をよく聞きます。  実はこれ、財務の仕組み上当たり前のことなのです。  

 

しかし、「売上が伸びればお金は足りなくなる」のは財務上の常識で、銀行もこれを前提としています。 「増加運転資金」は、銀行としては最も貸しやすい理由の1つです。 「売上が伸びたので資金が足りない」とはっきり答えていいと知っておくだけで、随分違います。  

 

「○年使えるものは○年返済の借入で購入」が基本になります。  耐用年数の長い設備を返済期間の短い運転資金で借りてしまっては、資金が回らなくなる可能性が高いのです。  

 

さらに、設備資金で借入を申し込むと、「銀行がその設備投資が適切かを検討してくれる」という効果も期待できます。  つまり、融資がNOであれば、「銀行として過大な投資」と見ているということです。  相談相手が不足気味な中小企業にとって、これはありがたいところです

 

ちなみに融資に関しては最終返済から半年〜2年程度の間、その支店の管轄となるところが多いようです。  お伝えした通り、「支店選び」も銀行対策です

 

究極的には無担保、無保証人の状態を目指しましょう。  できることなら、代表者の個人保証さえ要らないという状態を目指しましょう。  代表者の保証を外す方法の1つ目が「銀行引受私募債の発行」です。  銀行引受私募債とは、借入の一類型で、社債(少人数私募債)の一種です

 

純資産1億円以上(その他要件有)と、ハードルは高いのですが、健全な経営のためにはここを目指すべきです。  さらに、銀行引受私募債はハードルが高い分「健全性の証明」でもあり、信用力が増します。この借入は貸借対照表で「社債」と表示され信用力が向上するので、ほかの銀行との交渉時にアピールすることも可能です

 

盤石の財務体質を作り上げ、完全に主導権をこちらで握ると、最終的に無担保、無保証人で融資を受けることができます。  雲の上の存在のように思われるかもしれませんが、実際この域に到達している中小企業もあります。  最終的にはここを目指すべきで、そう交渉していくべきです

 

つまり、黒字のときに保険料を支払っておいて利益を圧縮し、いよいよ3期連続赤字になりそうだとなったら「解約」して利益計上するのです。  保険の解約益は「特別利益」になってしまい、銀行評価もそれほど上がらないかもしれませんが、「3期連続赤字で債務超過」よりはずっとマシです。

 

まずは①、これは「両建て預金」と言って、「独占禁止法」の「優越的地位の濫用」に当たるとされています。  何より預金利率よりも高い利息を払って借り入れたお金を「預金」に回す合理性はどこにもありません。  従わざるを得ないのはわかりますが、「知らない」と思われることが何よりもまずいのです。  とにかく銀行は「交渉しない人、情報のない人」には何でもありなのですから

 

「これは両建て預金に当たるのではないのですか?」と、契約の押印時にチクリと言うべきです。 「この企業には下手なことはできないな」と印象づけることが大切です。  

ネットバンキングや総合振込・給与振込、保険、投資信託、外貨預金などに応じることが金利引き下げの要素になると書きましたが、実はこれを「貸付の条件」にした場合には、「優越的地位の濫用」に当たり、金融庁からの指導の対象となることは、覚えておいて損はないかもしれません