340.最高の体調 ACTIVE HEALTH 鈴木祐

「デジタルデバイスが近くにあるだけで、認知機能は大きく低下する。デバイスの存在を近くに感じた時点で、目の前の作業に使える認知のリソースは減ってしまうのだ」  スマホは現代人の生活を大きく変えましたが、そのいっぽうで古代に生まれた脳は技術の発達に追いつけず、限りある認知のリソースをムダに消費しています。 その点で、現代人の集中力の低下も立派な文明病のひとつなの

 

部屋の換気は私たちの腸内環境を左右し、ひいては体内の炎症にもインパクトをあたえます。現代では、人間とバクテリアが共存できる住居こそが理想の空間なの

 

同じものばかりを食べると、腸内細菌の多様性が限られてしまいます。できるだけ幅広いジャンルの発酵食品を取り入れて

 

その結果は、「良好な社会関係」の数字がずば抜けており、孤独だった人に友達ができた場合は最大で 15 年も寿命が延びる傾向があったとのこと。 健康への効果はエクササイズやダイエットの約3倍に当たり、なんと禁煙よりも「友人」のほうが影響が大きいというから衝撃的

 

ちなみに、公園や森林は、腸内フローラの改善にも重要な役割を果たします。緑が多いエリアには、空気中に有用な微生物が漂っているからです。3章『2 衛生的な生活が免疫システムを狂わせる』でも紹介したグラハム・ロック博士の言葉を再び引きましょ

 

「自然の大気には大量の微生物がふくまれており、空気中で代謝と増殖をくり返している。花粉のような微粒子が微生物を運んでいるからだ。大気中の微生物は、わたしたちの呼吸器から体内に入っ腸へ向かい、免疫システムに影響を

自然の大気を吸い込むだけでも、わたしたちの腸内環境は改善していきます。自然のなかで過ごすと体調が良くなるのは、腸内環境が正常化したおかげも大きいのでしょう。まさに公園こそ、科学的に正しい「パワースポット」なの

 

いまの研究レベルでは「どれぐらい自然のなかで過ごすのが最適か?」という疑問に答えは出せないため、 最終的には自分のライフスタイルを崩さない範囲で、自然との接触レベルを最大化していくのが答えになる

 

「多くの人は、自分のネットワークに新たな友人が加わると、昔のネットワークとはコンタクトしなくなっていく。親密な関係を維持するためには、多大な認知機能と感情の投資が必要になるのが大きな原因だろう」   ヒトの認知リソースは大勢の友人をさばくようにはできていないため、1回につき5人前後としかな人間関係を築けない、というわけ

 

孤独に悩む人にとっては、これほどシンプルな解決策もないでしょう。もしあなたが内向的で人見知りだったとしても、コミュニケーションに自信がなかったとしても、接触の時間さえ増やせば相手の好意は得られるのですから。  先のメタ分析によれば、この効果の影響が最大になる接触回数は 10 ~ 20 回とのこと。このレベルを達成するまでは、まずは淡々と接触を積み重ねていきましょ

 

たちが他者に与えられる最強のプレゼントは「信頼」です。  相手に「こいつは絶対に自分を裏切らない」と感じさせれば、そこには必ず強固な同盟関係が生まれます。マーク・トウェインが残した「彼は人を好きになることが好きだった。だから、人々は彼のことを好きだった」という一文は、科学的にも正しいの

 

・公園の活用:2日に1回は公園に出かけ、木々の中で最低 10 分は過ごしてください。余裕があれば、1ヶ月あたりの自然との接触時間を150分以上にまで伸ばすように意識してみると、さらに大きなメリットが得られ

 

「私たちは自分の感情をコントロールし、意図的に影響を与えることができる。自分のストレスをいかに言葉や思考に変換するかで、どんな感情も再構築できるのだ」  たとえば、いきなり道端で知らない人に怒鳴られたとしましょう。普通なら「なんだこいつ!」と頭に血がのぼる場面ですが、一歩引いて「何か悪いことがあったのかもしれない」などと考え直してみるのも「リアプレイザル」の一種です。それだけで、ある程度は感情の波がおさまっていくはず

 

専門家の意見が一致した「良質な睡眠」のサインは次のようなものです。 ・眠りに落ちるまでの時間が 30 分以内 ・夜中に起きるのは1回まで ・夜中に目が覚めた場合は 20 分以内に再び眠ることができる ・総睡眠時間の 85 パーセント以上を寝床で使っている(昼寝や通勤電車内での居眠りなどの合計が 15%を超え

 

睡眠負債を返したければ、まずは日中に太陽の光を浴びる時間をできるだけ増やしたうえで、夜には室内の照明を限界まで暗くしてみて

 

実は、睡眠に問題がない狩猟採集民でも昼寝を行います。  カリフォルニア大学がボリビアのチマネ族の暮らしを3年にわたって記録した研究では、次の事実があきらかになりました。 ・夏の時期は、年間の睡眠時間の 22%を昼寝に使う ・冬の時期は、年間の睡眠時間の7%を昼寝に使う  狩猟採集民の世界でも、昼寝で体力の回復を計るのは普通のよう

 

まずわかったのは、どんな運動でも、ある程度の負荷があれば脳には良い影響があるという事実です。 筋トレでもランニングでも水泳でも、ジャンルはなんでもかまいません。とりあえず体を動かしておけば、あなたの脳機能は確実にアップします。  運動で脳のパフォーマンスが上がる最低ラインは次のとおり

 

・1回のセッションで 45 ~ 60 分ぐらいの運動をするとストレスが改善し、認知機能も向上しやすくなる ・「週に2回の運動」と「週に4回の運動」を比べた場合、両者に大きな効果の差はない ・運動のレベルは「軽く息があがるぐらい」から「ヘトヘトになるぐらい」までの範囲で行わないと意味が

 

基本的には「1回 45 分の少しキツい運動を週に2回」のペースで行うのが、脳機能のアップが見込める最低のラインです。 あなたのパフォーマンスを限界まで発揮させるためにも、ぜひこの基準を守ってみて

 

もちろん、ポルノやジャンクフードが悪だと言いたいわけではありません。大事なのは、現代にあふれる超正常刺激の存在に気づき、自分の反応を調節していくことです。ポルノやジャンクフードに操られるのではなく、こちらがコントロールする側に立つの

 

さらにデジタル断食の初歩として効くのは、あらかじめSNSやメールのチェック時間を決めておくことです。ブリティッシュコロンビア大学の実験によれば、スマホの通知を切ってメールチェックの回数を1日に3回までに減らした被験者は、仕事中の緊張やストレスがやわらいでい

 

やり方は簡単で、「 12: 00 ~ 12: 30 までメールチェック」「インスタグラムは月・水・金だけチェックする」とスケジュール帳に書き込んでおくだけ。それだけで、あなたの生産性と幸福度には大きな差が出ます。最初は軽い不安に襲われるかもしれませんが、少しずつ「興奮」の感情システムが落ち着き、やがて「満足」のシステムが起動していくはず

 

ミシガン州立大学が約 20 万人分のデータを精査したメタ分析によれば、人間は以下の4つの価値観に幸福を感じやすい性質を持っています。 ・自治:どれだけ人生を自由にコントロールできるかどうか ・多様性:仕事や人間関係に多彩さがあること ・困難:人生のタスクに適度な難しさがあること ・貢献:他者の役に立っているかどうか  いずれも納得の要素ですが、このなかで飛び抜けて抜けて影響が大きいのは「貢献」です。 自分の行動が他者に良い影響を与えていると確信できたときほど、私たちの幸福感は高まりやすくなり

 

キング牧師が聴衆に語りかけた「人生で最も永続的でしかも緊急の問いかけは、『他人のために、いまあなたは何をしているか』である」という言葉は、定量的なデータでも裏付けられた事実なのです。  もし未来の選択に不安を感じたら、試しに「誰かの役に立つ行動はなにか?」を考えてみてください。  その瞬間にあいまいだった未来は〝いまここ〟に収束し、不安が情熱に変わります。価値観に沿った行動を取る限り、あなたの未来には、もはや失敗がありえないから

 

2000年も前にストア派の哲学者セネカは「生涯をかけて学ぶべきことは、死ぬことである」と書き残し、紀元前 23 年にはローマの詩人ホラティウスが「明日のことはできるだけ信用せず、その日の花を摘め」と歌い、聖書にも「飲みかつ食べよう、明日には死ぬのだから」との語句が登場します。「死を想え」は、世界最古のライフハックのひとつと言えるでしょ

 

紀元前5世紀にインドで生まれたゴータマ・ブッダは、菩提樹の下で悟りを開いたあと、人類の不安に独自のソリューションを提供しました。 ひとことで言えば「すべての欲望はフィクションだと気づきなさい」というものです。  当然ながら、人間社会はさまざまな欲望で動かされています。美味しいものを食べたい、ビジネスで成功したい、好きな異性と結ばれたいなど、いずれも社会を前に進めるためには欠かせないガソリンです。  ところが、そのいっぽうで、欲望は果てしない不満も生みます。美味しいものを食べれば食欲が増し、よい車を買えば傷や汚れが怖くなり、大きな会社に入ったら周囲の社員に嫉妬が生まれたりと、その果てに待つのは、ローマ帝国の滅亡をもたらした「パンとサーカスの都」だけでしょ

 

さらにブッダは、「自分という存在」すらフィクションだと喝破しました。  もちろん〝いまここ〟で行動をする主体は存在しますが、結局のところ、私たちは遺伝子を残すために生まれた巨大なシステムの一部でしかありません。「自分」とはあくまで環境とのやり取りのなかに生じる自然現象のひとつであり、なにも変化しない絶対的な自己は存在しえません。ありもしない自己に執着心を持つからこそ、不安が生まれるのだとブッダは言い

 

「人間のうちにある諸の欲望は、常住に存在しているのではない。欲望の主体は無常なるものとして存在している。束縛されているものを捨て去ったならば、死の領域は迫ってこないし、さらに次の迷いの生存を受けることもない」(ウダーナヴァルガ 中村元

 

これが、仏教で言う「悟り」の基本的なアイデアです。確かに、欲望と自己をフィクションだと認識できれば、そこに不安は生まれようがないでしょう。なんといっても、死の際に消えてしまうはずの自分

 

もともと存在すらしないのですから、輪廻転生のシステムに頼る必要もありません。その意味では、初期仏教こそが間違いなく究極のソリューションだと言え

 

すべてのデータを分析した研究チームは、〝ある感情〟を体験した回数が多い者ほど、心理的な不安

 

体内の炎症レベルが低いという事実に気づきました。その感情が、「畏敬」

 

2700人を対象に行われた別の調査でも、生まれつき「畏敬」を感じやすい性格の人ほど親切な行いが多く、目の前の欲望にも強い傾向が確認されています。どうやら「畏敬」の感情は私たちの不安を減らし、良い人間にさせる働きを持つようなの

 

畏敬の念によって様々なメリットが得られるのには、ここでもやはり時間感覚が影響しています。  なにかに畏敬を感じると、私たちは自分の小ささを思い知らされ、より大きな存在の一部になったかのような感覚を得ます。森のなかにひとりでたたずむときや、壮大な音楽に没頭しているときなどにふと訪れる、あたかも自分と外部の境界があいまいになったかのような、あの独特な意識

  第一に、現代人にとってもっとも畏敬にアクセスしやすいのが「自然」

畏敬を引き起こす第三の要素は「人」

 

ブッダ、キリスト、ガンジーアインシュタインといった歴史上の偉人は当然のこと、現役のスポーツ選手、タレント、政治家など、カリスマ性を備えた人物は、いずれも畏敬の念を生みます。彼らの偉業や徳性は人類にとって恒久的な価値を持つため、自然やアートと同じように、永遠と一体化した感覚を育てるの

 

自分が思わず感嘆や感動を覚えてしまうような人物であれば、誰を選んでも構いません。伝記を読むもよし、インタビューを漁ってみるもよし、あなたにとってのカリスマを掘り下げてみて

 

畏敬 ・自然:アウトドアの回数を増やすか、ナショナルジオグラフィックなどで壮大な自然の映像を見てください。宇宙論や数学の美しさを描いた科学書に触れてみるのも有効

 

・アート:定期的に美術館に出かけるか、美術書に触れましょう。自分にとって心地よいものだけではなく、あなたの世界観に衝撃を与えるものや、ちょっとやそっとでは理解できないような作品を選ぶ

 

・カリスマ:あなたが思わず感嘆してしまうような人物をひとり選び、その人の人生を掘り下げてみてください。名の知れた人物に限らず、自分の親戚や周囲の人間でも構いません。自分の心が動くような人物であれば、すべて畏敬の対象になり

 

多くの狩猟採集社会は、日々の仕事を「遊び」に近いイメージでとらえています。 「生活のために働く者がいるとすれば、それこそが彼らの真の落ち度なのだ」  ある研究では、ブッシュマンが語ったこんな言葉が記録されています。  人類学の世界では、狩猟採集社会には「重労働」や「苦役」といった概念が存在しないことが昔から知られていました。日々の狩りや移動生活などのハードワークを、彼らは負担だと考えていないようなの

 

アカゲザルの結果をヒトに当てはめるのは危険ですが、心理学者のレネ・プロワイエ博士が4100人に行ったインタビューでも、「人間の遊び心は幸福度と高い相関がある」との結論が出ています。 簡単に言えば、遊び心がある人ほど、幸福な人生を送っている傾向があったわけ

 

現代人の問題を解決するには、仕事・育児・勉強といった人生のあらゆる面を「遊び化」していく必要があります。  毎朝のように通勤ラッシュにもまれ、顧客に頭を下げながら嫌々ながらの残業をくり返し、帰ったらシャワーを浴びて寝る……。  そんな当たり前の日常を、できる範囲で遊びの場に変えていくの

 

生産性が高い従業員ほど決まった間隔で仕事をしており、平均で 52 分ほど働いたら 17 分だけ休むというインターバルを守る傾向があったのです。 彼らは意識的にこのメソッドを組み立てたわけではなく、試行錯誤をくり返すうちに特定のインターバルに行き着いたと言い

 

その後も似たようなリサーチが行われ、トップパフォーマーには以下のような傾向が見られました。 ・精肉工場の従業員: 51 分の労働と9分の休憩をくり返す ・農業従事者: 75 分の仕事の 15 分の休憩をくり返す ・プログラマー: 50 分の作業と7分の休憩をくり

 

たとえば、「ポモドーロテクニック」という有名な時間管理術です。  ひとつの仕事を 25 分ごとに区切り、その間に5分の休憩をはさむテクニックで、あらかじめ目標の時間を設定しておくことで作業に明確なルールを設定し、作業への没入感を高める効果が得られ

 

かつて学生から「人間は何のために生きているのか?」と質問されたアインシュタイン博士は、こともなげに答えました。 「他人の役に立つためです。そんなことがわからないんですか?」  みなさまのご多幸をお祈りしてい