357.少年サッカーは9割親で決まる 島沢 優子、池上 正

多くの大人は、何かつらいことや厳しい自主練習を自分に強いる子が伸びる。だから、つらいことをやらせなきゃダメ

と思っているようですが、まったく違います。  そして、 子どもがそのように自発的にやるときのエネルギーの源は、「サッカーが好き!」「サッカーが楽しい!」というパッション です。人は好きなことをしているときが、もっともドーパミン(集中ホルモン)が分泌されるのですから。
                

実際にお会いしたことはないので断言はできませんが、ご相談の方の息子さんのような子どもは増えているようです。いわく、なるべく強い子とはやりたくない。いつもほどほどのレベルで目立っていたい。そのように「ぬるま湯」の環境を好む子はよくいます。  例えば、かけっこはタイム別。算数の少人数クラスなど何事もレベル別になっているため「大きく負ける」体験ができません。要するに、負けることが当たり前とか、負けることだってあるさという「負けることへのタフさ」が、今の子どもには欠けている ようです。  これは、兄弟が少ないとか、負けそうになるとリセットボタンが押せるゲーム機に慣れてしまっているのも、理由のひとつかもしれません。  それでは、そういった部分をどうすれば改善できるでしょうか。  それには、まず 親のほうが負けることにタフになる こと。もっと言えば、わが子が負ける姿を目にしても、揺らがないこと。出来が悪かったり、ミスしたり、試合に負けても、見ている親が感情的にならないことです。
                

「今日は負けたけど、次があるよ」 「ドンマイ! 次、がんばればいいよ」  そのような声をかけてあげてください。そして、試合でうまくいかなくても、目を覆ったりせず淡々と見守ってあげましょう。  そんな親御さんの態度こそが、徐々に子どもをタフにすると思います。
                

「サッカーが楽しい=うまくなる」だと私は思うのですが、日本ではまだまだ「楽しくやっているだけではうまくならない」と思っている指導者が少なくないのが現状です。チームがどんな感じなのか書かれていないので何とも言えませんが、もしピリピリした雰囲気ならば、家では「楽しくやればいいんだよ」と言ってあげてください。
                

それとは逆に、 スポーツでも勉強でも、自分から「これをやろう」と思って動き出すことが実は大切です。自分から「もっとうまくなりたい」「変わりたい」と思ったときに、初めてそうなる可能性が生まれます。「自主練習をやりなさい!」といわれ受け身でやっている間は、その可能性さえないと考えてください。 子どもが自発的にやったことでしか、本物の成長は獲得できない と私は思います。
                

私は拙書『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす 11 の魔法』(小学館)で、サッカーをやってきた大人は「危ないコーチ」と書きました。自身の経験をベースにして古いやり方で指導しがちなので、子どもをつぶしてしまう可能性が高いからです。その次に危ないのは、他のスポーツをしてきた大人です。  まずは自主性に任せて見守る。そして、プロという目標以外に、サッカーをすることで子どもが何を獲得していくか。人として成長するかという点に一度着目してみてください。
                

最後に。4年生が5キロのランニングなどしては体に悪いですよ。こちらはすぐにやめさせてください。体の成長を阻む「活性酸素」についてご存知でしょうか? 運動をやり過ぎると体内にたまってしまいます。また、何よりも、サッカーは陸上競技ではありません。
                

小学生で走り込みやマラソンなど必要ありません。そんな時間があるのなら、 サッカーボールを使った遊びをしたり、質の高いサッカーを観るほうが上達につながります。
                

 最後に、ひとつ言わせていただくと「リフティングがうまくなると、サッカーは下手になる」というのが私の持論です。以前このコーナーでもお伝えしました。その理由は、ひとりでずっと1個のボールを注視してリフティングをするという動作を繰り返す時間のなかでは、「周りを見る」ということを覚えないからです。練習の時間は決まっています。千回行うと 10 数分ほどかかるでしょうか。練習時間内に一人でリフティングをさせるなら、その時間にミニゲームをやったほうがはるかに上達すると私は考えます。
                

まずはお父さんに、オーバートレーニングの弊害が詳しく書かれてある本を読んでもらう、もしくはお母さんが読んで説明してあげてください。ジュニア期においていかにオーバートレーニングがいけないことかの論拠を示して、納得してもらうのです。運動をやりすぎると体内に活性酸素が蓄積され、低身長のリスクが増えるなど多くのマイナス面があることを知ってもらいましょう。もしくは、香川選手など現在活躍する選手の少年期について書かれた本を読んでもらう。多くの選手が自由で放任されて育っています。
                

もFWだったので、現役時代はオフサイドにかからないための練習や工夫をずっとやってきました。それには動きのコツをつかんでいくことが肝心です。  例えば、一度相手ディフェンスの背後に引く(ブラインドに隠れる)ようにしてから、スペースへ飛び出すこと。何も考えずに相手の前(ボールサイド)に出てしまうと、相手が自分の背後にいるため、自分がオフサイドの位置にいるのか、いないのかがわかりません。  ですので、前線やスペースに飛び出そうとする場合は、必ず相手の背後に立つ。そこで飛び出してはターンをして、また相手の背後に戻ってくる。そのような動きを8の字を描くように繰り返します。そのようなことを理解しているのかどうか、一度お子さんと話してみてください。
                

ついでに申し上げておきますと、 子どもの試合を観戦するときのサイドコーチングは慎みましょう。 「オフサイドライン、見えてる?」「ほらほら、そこはオフサイドだぞ!」  そのように声をからして言葉をかけている親御さんやコーチの方をよく見かけます。審判へのヤジはもちろん              

ですが、子どもたちへのコーチングは少年サッカーではタブーです。他にも、「そこ、勝負!」とか、「シュート撃て!」とか「逆サイド見て!」などといった指示にあたる応援は絶対にやってはいけないことになっています(みなさんルールを破っていますが)。
                

また、サッカーボールは、怖がって逃げているとかえって当たったりして痛い思いをしますが、追いかけていくと当たらないものです。「危険の伴う練習はしてほしくない」と書かれていますが、そういうものではありません。スポーツですから、ボールが当たって泣くこともあります。
                

リフティングの指導法を尋ねられているのに、申し訳ありませんが、 私はひとりで黙々と何百回もこなすリフティングは必要ないと考えています。
                

その理由は、ひとりでずっと1個のボールを注視してリフティングをするという動作を繰り返す時間のなかでは、「周りを見る」ということを覚えません。「リフティングがうまくなると、サッカーは下手になる」は多少             

大げさかもしれませんが、根拠がないわけではないのです。
                

「リフティングでは、サッカーに必要な集中力は養えない」それが私の結論です。
                

思えば長男がサッカーを始めてから 10 年間、ライターという職業を活用し、優秀といわれる指導者に「子どもを伸ばす親ってどんな親ですか?」と尋ね続けてきました。すると、全員が異口同音に「干渉せずに見守る親」と答えました。反対に、子どもの成長を阻むのは「過干渉で必死な親」でした。
                

お父さん、お母さん。わが子を伸ばしたいのなら、親が必死にならないことです。ゆったり構えて、冷静に。冷静になってどう考えるかのヒントは池上さんが教えてくださいます。 「9割僕たち(私たち)の責任なの?」と憤らずに、ぜひ発想の転換を。  サッカー少年(少女)の成長が9割親次第ならば、私たち親が子育ての本質を見極め行動すればいいのです。  その本質は、この本にあります。