288.プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?――その投資法と思想の本質 冨田和成

国内外のプライベートバンク各社が積極的に営業攻勢をかけ始める最低ラインも1億円(海外の場合は100万ドル)で、よりエグゼクティブな層をターゲットとするプラベートバンクになると、2億円以上、 10 億円や 50 億円以上といったケースもあります。 野村総合研究所(NRI)では日本で純金融資産が1億円を超える世帯を「富裕層」と呼び、

 

年の調査ではその数は114・4万世帯、5億円を超える「超富裕層」は7・3万世帯としています(純金融資産とは、全金融資産から借り入れ部分を引いた資産のこと)。割合でいえば富裕層が2・16%、超富裕層が0・14%です。 プライベートバンク各社はこの上位わずか2・3%の富裕層を取り込むために、苛烈な争奪戦を繰り広げているの

 

つまり、純金融資産1億円(海外だと100万ドル)を突破するかどうかで、まるで車のギアを1段、2段上げるかのように金融機関の対応が変わるということ。そして場合によってはそこでレバレッジがかかって資産が新たな資産を生む仕組みが構築され、さらに資産の格差が広がる可能性を高めている、ともいえるの

 

でも実は京都オークラのVIPルームのように、特権的な世界は若干カモフラージュされているだけで、存在していないわけではありません。 特に金融業界における「1億円の壁」は純然と存在し、そこを突破するかしないかで扱いが変わり、見える世界も変わります。そして多くの人は

ことを知りませ

 

ちなみにボストンコンサルティンググループ(BCG)が2015年におこなった世界の家計金融資産の報告書(Global Wealth 2015 : Winning the Growth Game)では、日本の富裕層世帯は110万世帯。国別の富裕層世帯数では1位が米国で約690万世帯。2位が中国で360万世帯。日本は世界で3番目に富裕層世帯が多い国

 

私たち日本人にとっては、相続税があるのは当たり前だという感覚が一般的だと思います。でも、実は相続税がない国というのは、ざっと挙げるだけでも、イタリア、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドオーストリアスウェーデン、メキシコ、中国、タイ、マレーシアと、多数あるのです。 米シンクタンクのタックス・ファウンデーションが2015年に発表した各国の相続税率調査によると、OECD加盟国の相続税率ランキングで日本の 55%は世界1位(図1-1)。OECD加盟国の単純平均は 15%にすぎないそう

 

「富める者が持たざる者を助けるのは当然だ」という意見もあるでしょう。そこを議論するつもりはありません。しかし、世界的に見ても日本はどこまでも富裕層に厳しい国であることは間違いありません。そしてそんな日本に嫌気がさし、海外に移住する富裕層が多くいるのも事実

 

「原資が多ければ多いほど、お金を生み出すことは簡単になる」——これが資産運用の基本です。 たとえば資産1000万円の人が資産運用で1億円まで増やすのは至難の業で、奇跡的に 10%の利回りをずっと続けられたとしても複利運用で 25 年かかります。 でも、すでに 10 億円持っている人が資産運用で1億円を生み出すのはそう難しくありません。 10%の利回りなら1年で、3%くらいの安定した商品であっても複利で運用すれば3年で作れ

 

年齢を重ねれば資産は増えていくものなので、富裕層の大半は高齢者です。 キャップジェミニによる2011年の「World Wealth Report」によると、日本人の富裕層(純金融資産100万ドル以上)の 93%が 45 歳以上

 

さらに最近では千葉銀行静岡銀行琉球銀行香川証券などの地方金融機関も富裕層ビジネスに乗り出しています(これらの地方金融機関の多くは、実際の資産運用についてはスイスのロンバー・オディエと提携して、信託契約代理店として顧客を紹介する形をとってい

 

金利になり資産運用の難易度が上がっているいま、顧客の資産を預かって運用するファンドマネージャーたちは1%でも多く利回りを出そうと頑張っています。でも、平均的な商品でも買付手数料は約3%、運用報酬で年間約1・5%以上も取られますので、よほどの好成績を残さないと投資家に利益は出ません。 いま、そういった投資信託や株の運用で勝てている投資家は、マーケット自体が伸びているからにすぎないケースがほとんどです。よって、手数料が気になるという富裕層のなかには、大手証券会社で買うよりも手数料が 10 分の1くらいに抑えられるネット証券で自ら資産運用をされている方もいらっしゃい

 

預かり金が規定金額を超えたとき これはわかりやすいケースです。 金融機関は預かり残高が大きい顧客の動向をチェックしています。もしあなたの残高が1億円を超えたら、おそらく支店長が本社のプライベートバンカーを引き連れて、菓子折りを持って訪問してくるでしょ

 

資産管理会社から推測する 富裕層の多くは税金対策のために資産管理会社を持っています。帝国データバンクなどの企業情報データベースをうまく使えば、こうした資産管理会社を効率よく抽出することができます。 社員数が少なく、その割には売上高がそこそこあり、そして企業の「業種区分」に偏りがあるのが資産管理会社の特徴です。私が現役時代には、主業種が「不動産」で、副業種が「貸事務所業・貸家業」または「その他投資業」など。そして「売上5000万円以上」と「従業員5人以下」

して検索をかけていまし

 

ただし興味深いことに、若いときにステータスにハマったり、派手な遊びを一通り経験すると、その後ほとんどの富裕層は落ち着きます。一種の虚しさというか、それでは心が満たされないと感じる方が多いよう

 

マズローの欲求ピラミッドでいえば、自己実現欲求や承認欲求のステージを卒業する瞬間。この段階になるとベンチャー投資に興味を持ったり、財団設立に関心を持ったりする富裕層が増える傾向にあり

 

たとえば、マレーシアで出会った、上場企業で時価総額数百億円規模のコングロマリットグループの2代目オーナーは、為替リスクの対策のために外貨預金はするものの、運用にはほとんど興味を示しませんでした。 彼いわく、「自国の経済が絶好調で、自分の会社の事業に投資すれば 20、 30%で回せるのにわざわざ他社の株を買う必要はないし、どうせマレーシア国内経済が悪くなったらプライベートバンクによる資産運用も含めて全部悪くなる」というのが持論。妙に納得させられたことを覚えてい

 

・相続型、もしくはキャッシュフローの乏しい富裕層が求める利回り →1〜3% ・成り上がり型、もしくはキャッシュフローが潤沢な富裕層が求める利回り →3〜

 

「銀行の倒産リスク」「インフレのリスク」は、(備える必要はあるものの)まだ顕在化していないリスクですが、「為替リスク」はすでに現実のものとして起きているもの

 

2012年のUSドル/円の年間平均の為替レートは 79・79 円でした。それがわずか3年後の2015年には121・04 円(こちらも年間平均)になりました。つまり世界的に見れば、日本円で資産を持っていたというだけで、その価値が3年間で 35%も下がってしまったの

 

このオーナーが海外資産にこだわった背景には、大量に保有する自社株がありました。これは全て円での資産であり、オーナーにしてみれば「円資産のポートフォリオは自社株だけで十分」という考えだったのです。だからこそオーナーは、配当収入などでキャッシュが入ればそれを

 

外資産に換えることで、為替リスクの対策としていまし

 

一方で、富裕層でも、海外の金融商品が満期を迎えたときに、当たり前のように円建て資産に戻してしまう、日本人ならではの「クセ」から抜け出せない人もいます。 運用を終えたらそのまま外貨で持っておけばいいのに、「安心するから」という理由で、決して安くはない為替手数料を支払って日本円に戻してしまう。これは決して合理的な行動とはいえません。 東南アジアなどに行くとよくわかるのですが、各国の富裕層はアジア通貨危機を経験している

 

誰も自国通貨など信用しておらず、積極的に米ドルで資産を持とうとしています。彼らほどではないにしても、「資産を外貨で持っておく」という常識を日本人も持つべきだと思い

 

さて、量的緩和の継続の安心感があった数年前くらいまでは、米国では好景気を示す景気指標(雇用指数など)が出たらマーケットが上がっていました。でもこの数年は、良い景気指標が出ると逆にマーケットが下がるという事態が起きています。「FRBによる資産圧縮の加速や金利引き上げがおこなわれるのでは?」という臆測から、利益を確定させておこうと株や債券などを売却する投資家が増えているから

 

すなわち、量的緩和の終了や金利引き上げを警戒するフェーズにおいては、米国で好材料が出ると株価などは下がり、ドル高になる可能性が高いということです(2017年6月 14 日の追加利上げの発表後には、若干の株高になりましたが、これは発表が予想されていた後での、材料出尽くしのケースでした)。 以上が量的緩和と低金利政策、つまりお金のバラマキと金利の両方の効果

 

このポートフォリオから学ぶべき最も重要なポイントは、「今の時代にあっては株、債券以外の商品にも投資しないと安定運用は望めない」という一点に尽きます。たとえば、戦争が起きそうになると経済の先行き不安から株価は冷え込みますが、天然資源などは上昇します。9・11 が起きたときのマーケットも「株安、資源高」で動いています。 ユダヤ教聖典「タルムード」には「富は常に3分法で保有すべし。すなわち3分の1を土地に、3分の1を商品に、残る3分の1を現金で」と記されてい

 

同大の最高財務責任者(CFO)、デイビッド・スウェンセン氏は、その著書『イェール大学CFOに学ぶ投資哲学』(日経BP社)の中で「リターンの変動の約9割が、資産配分に起因する」と述べており、「投資家は資産配分目標を合理的に設定するのが先決なのに、役に立たない銘柄選択や(投資)タイミング(の時期をはかるの)に夢中になっている」と指摘してい

 

でも、彼は相場が気になって寝付けないことは滅多にないと言います。なぜなら、「リスクをヘッジすること」がファンドマネージャーの仕事だからです。仮に負けたとしても、傷を最小限にとどめられるように手を打っておけば、資産運用はギャンブルではなく「数学」になり、ある程度コントロールできるようになるの

 

相続や事業承継は、着手するのが早ければ早いほど打てる手が増えます。たとえば、生前贈与も計画的に 20 年、 30 年と続けていれば、かなりの額を非課税枠内で移譲できます。これは超富裕層ともなると大きなインパクトがない方法ですが、金融資産2億〜3億円くらいまでの富裕層や準富裕層クラスであれば、決して無視できない節税効果を生み出すのです。 もしくは、起業家や事業家であれば、教育効果も考え、子供が小さいうちから海外に移住し

 

現地で起業するというのも手でしょう。何も自分がリタイアを検討するタイミングまで、対策を持ち越す必要はないの

 

特に最近、「グレーゾーン金利」の過払い分の回収が一通り終わったことで、一部の弁護士たちが次の標的に定めているといわれるのが証券訴訟です。「うちの顧客が理解できなかったのは、おたくらが説明責任を果たさなかったからだ!」と難癖をつけ、訴訟を起こしていると聞き

 

富裕層は生命保険にあまり興味を示しません。保険は不測の事態が起きたときにお金で困ることを防ぐためのセーフティーネットですから、潤沢な資産を持っている富裕層には不要なの

 

そうした前提で、一部の富裕層が興味を持つことがあるのが、海外の生命保険、通称「オフショア保険」です。ただの積立年金のような商品が大半ですが、なかには生命保険の証券を担保にして融資を受けられる銀行が存在します。 オフショア保険の利点は、レバレッジをかけた巨額の死亡保険金を設定できること。最大100億円程度の死亡保険金まで加入することができます。 具体的な仕組みはこうです。 契約した生命保険を担保にして、プライベートバンク経由で銀行融資がつきます。そのお金を使って契約額を上乗せすることで、死亡保険金の額を大きくするのです。借りた資金は死亡保険金が支払われるときにそこから完済できるので、遺族が負債を抱えるリスクもありませ

 

ちなみにこのスキームを顧客に提案していることで有名なのが、バンク・オブ・シンガポールです。そのスキームは商品化されて他のプライベートバンクでも取り扱われており、高い人気を得てい

 

むしろ富裕層の特徴を挙げるなら、「ギブ&ギブの精神があること」だと思います。やたらと面倒見が良かったり、人と人をつなげることが大好きだったり、困っている人がいたら骨を折ったりと、本当の富裕層になってくると献身的な人の割合がグンと上がる印象があります。 日頃からギブ&ギブの精神で周囲に奉仕しているからこそ、「この恩をいつか返してあげよう」と思う人たちが増え、結果的に「いい話」が舞い込んでくる。もしかしたらそれはビジネスでの窮地を救うような人との出会いかもしれませんし、またとない投資の機会かもしれません。 一代で財を築くような富裕層を指して「運が良かっただけだ」と片付けるのは簡単です。

 

見ている限り、富裕層の多くは「運を引き寄せた人たち」だと思うのです。つまり、実際には恩が巡り巡って自分のところに帰ってきているだけなのだと。 また、富裕層になると、そのようなギブ&ギブの精神を持った成功者との付き合いが増えていくので、その恩の連鎖はより小さく、早く回るようになり、運を分かち合う正のスパイラルに入っていくケースがよくあるように思い

 

特にマイホームを持っている方は、資産規模にもよりますが日本円の資産を十二分に持たれている場合が多いので、株や債券やREITなどに投資をするときには100%近くを外貨建てにしてもいいかもしれませ

 

一時的に外貨としてとっておきたいのであれば、FXに口座を開き、レバレッジをかけない(1倍)で放置する方法が最も安上がりになります。FXは売買手数料が無料なものがほとんどですし、スプレッド(売値と買値の差分)についても米ドルなら平均で0・3円くらいです(FX会社によって異なります)。 また、FXの特徴としてスワップ金利というものがあり、たとえば日本円を米ドルに両替(実際にはポジションを買っているだけ)すると、米ドルの金利のほうが日本円の金利より高いので、その金利差が毎日もらえます(逆に日本より金利の低いスイスフランなどを買うと、金利差を毎日支払うことになります)。さらにFX会社によっては、外貨のまま下ろせるところもあるので、外貨預金よりも圧倒的にお得になるの

 

しかもアウトソースすれば自分の時間が生まれるわけですから、自分にしかできない投資活動(本業など)の時間を増やすことができます。 それに専門分野ほど習得するまでの時間的なコストが高いため、知恵をアウトソースするメリットが大きくなります。それを示すように、米国では、医者と弁護士とファイナンシャルプランナーという3分野の専門家がついていることが成功者の証しのようになってい

 

「ハーバード流ポートフォリオ」を実践すれば、運用資産の半分は株と債券になります。そして、それだけの株と債券を買うということは、「世界経済が今後も成長していくだろう」というポジションに賭けることと同義です。 そのポジションを正しい形で取るためには、 ・市場の平均値を狙う=インデックスに投資する ・グローバルに分散させる=「日本」「先進国」「新興国」の商品を

 

・中長期的な視点を持つ=短期売買をし

 

場合は学生時代にITで起業を経験し、今はフィンテック企業を経営しているので、同業者で「この会社はそろそろ次のステージに行きそうだな」といったことが感覚的にわかるようになってきました。 何もプレスリリースなどを頼りにする必要はなく、「最近、その会社のいい噂をよく聞く」「喫茶店でそのサービスについて噂をしている人がいた」「(アプリであれば)ダウンロードランキングに顔を出してきた」といったことでも十分に参考になります。 むしろ、急成長が確信できる状態まで待っていたら、その間に値上がりしてしまうわけですから、あくまでも「最悪なくなってもいい」と思える範囲で投資してみる。それが個別銘柄への投資の正しいスタンスなのです。 なお個別銘柄を損切りする場合は、長期投資のスタンスであっても、その目安は 20〜 30% くらいが妥当でしょう(短期、中期であれば 10〜 20% が目安)。そうやって基準を定め、その範囲内に

 

ている限りはチャートの上下に一喜一憂しないことが、資産運用的にも、精神衛生的にも合理的だと思い

 

「家族への承継」といったとき、多くの人は資産の承継だけを想像するかもしれませんが、富裕層にとってもっとも重要なのは、家族に対する「お金を生み出す(守る)力」の承継です。そこが不十分だと、世代が進むにつれ資産が半減していき、3代もすれば一庶民に戻る可能性が大いにあるからです。 だからこそ、富裕層は子供の教育に対して大きな投資を惜しみませ

 

日本では受けられない紳士淑女の教育も受けさせることは、結果として子供に中長期での「お金を生み出す(守る)力」を身につけさせることになります。 こうした教育方針は完全に投資発想でもあり、その根底にあるのは人自体が「ヒューマンキャピタル」、すなわち「人財」であって、一族で見たとき、将来リターンとして返ってくるということです。企業のバランスシートに無形資産としてソフトウェアが計上されるように、一族のバランスシートに、将来お金を生み出す「知恵」や「人脈」といった無形資産が計上されていくと考えるとわかりやすいかもしれませ

 

しかも、こうした人財への投資は親が支払うわけですから、贈与税相続税もかかりません。子供に蓄えられた無形資産に対しても税金がかかることは当然ありません。プライベートバンカー時代に「頭には税金はかけられませんからね」と談笑したことを思い出します。 このように、富裕層の教育とは、実質非課税の、親から子へのバランスシートの移転のようなものなの

 

参考までに、一番上に出てきた「スパークス日本株・ロング・ショート・プラス」について簡単に見ておきます。 これはスパークス・アセット・マネジメントという運用会社のファンドマネージャーが、日本株だけをロング・ショート戦略で運用している商品です。過去5年のトータルリターンは 16・68%。この商品についてはSBI証券と楽天証券のネット証券2社で購入できます。投資信託ですので1口1万円から。人気商品のため基準価格は1万8000円近くまで値上がりしてい

 

とくに世界中の不動産物件に投資をするグローバルREIT関連の商品は、最近まで投資信託の「利回りランキング」や「純資産残高増加率ランキング」の上位に必ず複数見かけた人気商品。それだけ安定して高い利回りが出て、なおかつ流動性が高いということです。 J-REITの分配金は執筆時現在、3〜5%の商品が多く、株や債券の投資信託より高めです。 実際の不動産投資の利回りは、都心で3〜5%くらい、地方で7〜 10%くらい。さらに所得税対策に使われる減価償却を取ることができないことも加味すれば、少し低めですが、その分

 

流動性が高いのですぐに現金化できる(その代わり値段は上下しやすい) ② 複数の物件を扱うので空室や災害リスクを分散できる ③ 投資法人は大手デベロッパーが中心なので倒産リスクが低い といったメリットがあり

 

が経営するZUUでは、これまでも「ZUU online」というサイトを通じて、世の中の金融リテラシーの向上に努めてきました。今後、メディア事業の枠を超えて、さらに「1億円の壁」を壊すことに邁進するつもりです。その過程でも、また皆さんのお役に立てることを願っており