271.妻のトリセツ 黒川伊保子

要は、「夫」という役割をどうこなすかはビジネス戦略なのだ。男にとって、人生最大のプロジェクトかもしれない。プロの夫業に徹することで、その結果、妻から放たれる弾を 10 発から5発に減らそうというのが、本書の目的である(なぜ、ゼロを目指さないかは、のちほど)。

 

女性脳の、最も大きな特徴は、共感欲求が非常に高いことである。「わかる、わかる」と共感してもらえることで、過剰なストレス信号が沈静化するという機能があるからだ。それによって、怖かった、悲しかった、痛かった、寂しかった、惨めだった、辛かったという神経回路のストレスが軽減される。逆に共感が得られないと一気にテンションが下がり、免疫力も下がってしまうのだ。

 

さらに、男性脳にとっては、共感よりも問題解決こそがプレゼントなので、共感を端折って、「○○すればいいんじゃない?」「やらなくていいよ、そんなもん」と、いきなり問題解決してしまうのだ。  かくして、女たちは、「思いやりがない」「私の話を聞いてくれない」「いきなり、私を否定してくる」となじってくるのである。

 

たとえば、帰宅するなり、「○○(子どもの名前)が、寝かせると泣くから、ず~っと抱っこしていて、腰が痛くなった」と訴えられたとする。その場合になんと答えるべきか。

 

が求めている正解は、「一日中、抱っこしてたの? そりゃ腰だって痛くなるよ。本当に大変だったね」だ。解決策は必要ない。  あとは、「今日一日がどんなに大変だったか」を「うん、うん、わかるよ」「ひゃ~、そりゃ大変だ」と頷きながら聞いていればよい。

 

妻とは、ことごとく意見が合わない……。いや、意見のみならず、こちらが暑がりなら向こうは寒がり、向こうが神経質ならこちらは大雑把といった具合に、感性が真逆という夫婦は多いはずだ。というのも、恋に落ちる男女は、生物多様性の論理に 則って、感性が真逆の相手を選んでいるからにほかならない。

 

地球上の生物のほとんどは、生殖をその存在の第一使命としている。生殖して遺伝子を残す。その最も効率的な方法は、「タイプの違う相手との掛け合わせ」と「生殖機会ごとに相手を替えること」。感性が違うほど、遺伝子は多様性を極め、子孫の生存可能性が高まることになるからだ。

 

逆に、好きな食べ物も、好きな映画も、笑いのツボも一緒という夫婦は、相手にイライラすることが少なく、まるで親友のような穏やかな関係を築くことができる。その代わり発情しにくいので、セックスレスになりやすい。

 

しかし、妻を侮辱する夫の対応は、娘の未来を幸せにしないし、息子の将来にも影

 

父親がやるべきことは、妻と娘がもめていたら、どちらの言い分が正しいかをジャッジすることではない。「どちらが正しいかは関係ない。お母さんを侮辱した時点で、おまえの負けだ」と娘に告げることだ。  娘は、どんなに反発していても母親を大切にする父親を嫌うことはない。むしろ、父親の強さと頼もしさを知ることになる。

 

また、息子が妻に反抗した場合は「俺の大切な妻に、そんな暴言は許さん!」と毅然と言おう。息子の暴言を見て見ぬふりをする父親は、軽蔑されても尊敬されることはない。何よりも、子どもたちに対して「妻が一番大切だ」と宣言することは、妻の心に響く。このひとことがあれば、一生夫と寄り添っていけるという妻も少なくない。  また、こういう夫であれば、必然的に妻も夫を大切にし、何かにつけて夫を立てるようになる(はず)。これが、息子にとって大きな意味を持つ。

 

とはいえ、ふだんは妻をいい加減に扱っていながら、急に息子のために俺を立てろと言っても「ハイハイ」と言う妻はいない。何があっても妻の味方でいる。この一貫した姿勢が妻の信頼を勝ち取り、結果、娘と息子の未来を幸せにする。

 

そういう男性脳の持ち主である夫から見ると、妻の「ビビッときたから」は選ぶ理由としては甚だ心もとない。それゆえ、揺るぎないイチオシを選んでいる妻に対して、親切心で「ほかにも、もっと見たら?」と言ってしまう。妻の高揚した気持ちを萎えさせる夫のひとこと

 

②「つまりこういうことだろ?」  愚痴に対しては「わかるよ。大変だね」と共感するだけで十分。頼んでもいない要約や解決策の提示は余計なストレスを増やすだけ。

 

事実を肯定するときも否定するときも、その前に、妻の心根は肯定してやる。これこそ、夫が知っておくべき「黄金のルール」である。

 

心さえ肯定しておけば、事実は、どっちに転んでも大丈夫。逆に言えば、無責任に「そうそう、そうだよな」と言っていいのである。この黄金ルールを覚えておけば、いらぬ地雷を踏まずに、自分の意見を通せるので絶対に楽になる。

 

もっと身近な日常にも、応用可能。「美味しいワインを買ったから、この週末に飲もうよ」なんて夫が言えば、ワインに合いそうな料理をあれこれ考え、いつもよりも丁寧に掃除機をかけ、テーブルクロスにアイロンをかけたり

 

忙しくて、妻とのコミュニケーションをなかなかとれない夫ほど、この手は使える。予告するだけで、実際は何もしていない時間も、浮き浮きと過ごしてくれるのだ

 

一日に一度は「愛している」と言い、朝はキスをして「行ってきます」と出かけ、レストランでは奥の席に座らせ、階段を下りるときは、先に立って腕を支え、重い荷物は持ってやり、君はきれいだと 囁く、ソンナオトコニボクハナリタイ……と、思っているかどうかはともかく、これは欧米の男たちが、日常的にやっている言動である。

 

逆上されたからといって、すべての原因が夫なのではないのである。だから、原因を真面目に究明しようとしても、公明正大に改善しようとしても、まったく 埒 が明かない。女はただ怒るために、怒っている。本人も気づいていないけれど。  ……そう、女は、本当のところ、かなり理不尽なのである。

 

しかし、その女性脳のストレスは、夫の6倍近い家事や「家族のための気づき」を休みなく行っている結果、たまったものだ。その放電の手伝いをするのは、ある意味、理にかなっていると言えなくもない。