267.サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 会計編 三戸政和

まず、会社を買うために必要なのは「 値付け」です。前著にも記しましたが、会社の価値は「 純資産+営業利益3年から5年分」が相場です。

 

そのコラムには、講演会で聴衆から「お金は好きですか?」と聞かれた時、「自分にとってお金は、爪切りと同じです。爪が伸びたら使う道具。必要なときに、必要なことをしてくれる道具に過ぎません。僕からすると、『どうして爪切りが好きなんだ?』と質問しているように聞こえます。答えようがありませんよね」

 

貯金をしている人は、私に言わせれば、お金を塩漬けにして、得られるはずの経験を見送ってきた人なのです。

 

ちなみに私自身は、稼いだお金をすべて何かの体験に使っているため、貯金はまったくありません。

 

この「純資産」と「利益」の両方を見て、会社の価値が算定されます。  そのための基準となる計算式があります。それこそが、   株式価値=純資産+営業利益3年から5年分

 

減価償却累計額が大きければ、資産の購入時期はかなり前になることがわかります。そのため、次なる設備投資が近いことが想像できます。

 

会社が倒産するのは唯一、手形の不渡りを出した時 です。それ以外は、たとえ銀行からの借入金を返済できなくとも、取引先からの仕入れ代金を期日に支払えなくとも、頭を下げればなんとかなります。

 

逆に、冷凍焼けでも 50 万円くらいで買ってくれるツナ缶屋さんがいたら、 50 万円で在庫の評価を見直せますね。このように在庫の評価を

 

て、価値が下がっている商品のBSの金額を下げることを「 減損」と言います。この場合は950万円の減損

 

ドラマの世界の話のように感じるかもしれませんが、仕入れ代金を踏み倒して倒産する飲食業は結構多く、私もいくつか被害に 遭ったことがあります。飲食業は現金売上が多い商売なので、このような資金の先食いが起こりやすい環境にあるのです。

 

極端に言えば、 前受金の金額より現金が少ないBSは、不健全どころか先食いしてしまっている可能性がある のです。BSに前受金が出てきた場合は、必ずそれ以上の現預金があるのか確かめ、いつ受け取って、いつサービスを提供して、いつ支払いが来るのかを時系列で確認し、先食いしていないかを調べなければなりません。  前受金ビジネスの場合、使っていい現金(前受金)は、支払いが終わった後に残った利益分だけなのですが、取引量が増えると、どの取引の前受金かわからなくなってきて勘違いをしてしまうのです。

 

さて、 前掲の図 をもう一度見てください。資産の説明の時に、「上から流動性(換金性)の高い順に並んでいる」という説明をしました。つまり上の項目の金額が多ければ多いほど、いざという時はお金にできるので、すぐには 潰れにくい=倒産リスクは低いと言えます。

 

そして、新しく重要視されるようになったのが「 利益至上主義」です。  PLに戻ると、すべての費用を払い切って、残った利益が自分(株主)のものになるわけですが、この 利益を最大化させるのが、資本主義社会においてはとても重要 だということです。株主として拠出した自己資金(資本金)に対して、どれだけの利益を出し配当に回せるかが、株主目線ではいちばん重要な指標だからです。これを ROE( Return On Equity:自己資本利益率)と言います。

 

ここで、少しだけ専門的な話をすると「純資産+営業利益3年から5年分」という指標以外に、「 EBITDA( Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:イービッダ)」という指標もあります。EBITDAは、税引前利益に、特別損益、支払利息、減価償却費を加算した値ですが、ややこしいので、中小企業の会社の買い方ではこのような覚え方は不要です。EBITDAとは、営業利益に「 減価償却」を加えたもの、と覚えてください。

 

ですから、このような株主の意向が存在する 株式会社にとって、現金を資産として持っていることは本質的に正しくない のです。企業にとって現金は、資産をより大きくするための投資に対して必要なものだからです。投資家からすれば、現金を寝かせておく企業に投資するくらいなら、投資せずに現金で持っておいたほうがリスクのない分よいわけですね。

 

ちなみに、現金の必要量は、月商の2~3ヵ月程度と言われます。それ以上でも、それ以下でもよくないということです。

 

経営の安全性という点においては、現金を含む流動資産が多いほうがいいのですが、将来的な会社の成長を考えると、流動資産が多すぎる企業というのは、「経営をサボっている」「経営を 怠けている」とも言えます。出資した株主からは、「ちゃんと経営してください」と怒られるでしょう。

 

流動資産がより大きな価値を生み出せる固定資産に変わるからこそ、事業は利益を生み出すことができます。資産を使って利益が創出され、ポイント残高である利益剰余金が積み上がり、そうして純資産が大きくなっていく のです。それこそが「経営の本質」です。

 

企業が資産の収益性をより高めようとすればするほど、資産の流動性は低くなる と言えます。それをしなければ収益性は低いままです。 収益性を上げるためにどれだけリスクを取って投資をするかが、経営者の手腕 と言えます。

 

過剰な現金を持ちすぎているのは、国債を買うより運用効率が悪い(というより、まったく利益を生まない)。そこで苦肉の策で、現金を減らすために国債を買ったというところではないでしょうか。そして、決算を締め、上場企業は財務諸表の開示義務がありますから、BSの国債が 公 になり、騒ぎになった。流動資産が投資家に評価されなかった象徴的なケースでしょう。

 

返済が終わりそうになったら、返し切る前にまた借り入れをすることをおすすめします。銀行は担当者がすぐに変わってしまいますから、人的なつながりを確保しておくことは重要です。

 

さまざまなしがらみもあってか不要な土地( 遊休資産)を売却するという意思決定を行っていなかったりする、ということがあります。地方などの土地をたくさん持っている企業は、今後の日本の土地価格下落を考えると、額面より低く評価されていてもおかしくはありません。

 

BSの帳簿に表記されている資産の価格(帳簿の価格という意味で「 簿価」)と、その時々に価格が変わる「 時価」とでは、しばしば 乖離 があります。ですから、その評価をうまく使っていくことで、BSでリターンを出すこともできるのです。