218.プロ野球・二軍の謎 田口壮

ところで、「便りのないのはいい便り」なんて言われますが、野球も

 

アメリカにおいては、現役選手が引退後のプランを日ごろから考えているのはごく一般的なことですし、突然収入が断たれたときに選手が困らないようにと、球団やMLBが引退後に向けて積み立て預金を奨励したり、お金の運用の仕方を指導したりすることがあります。  しかし、武士道の精神性をよしとする日本では、退路を断って勝負に臨むべきであり、負けたときのことを考えて準備を万全にしておく……わけにはいかないのでしょう。したがって日本では多くの選手が、野球にすべてを賭け、野球だけを追い求めた挙句、突然、なんの備えもなく人生の岐路に

れることになり

 

足場の固まったトップ選手ならば、再就職の道も見つけやすいでしょうが、日の当たらない二軍でもがき続けている選手のほうがずっと多く、彼らの第二の人生は大変厳しいと言わざるを得ません。これが、プロ野球選手の現実

 

僕がお世話になったカージナルスの2A、ニューヘブン・レイベンズでは、なかなか家賃を払えない 若手選手を、地元のファンが食事付きでホームステイ させていました。これによって、選手は食費や家賃の不安から逃れて野球に集中でき、地元のファンは我が子のような気持ちで我が町の選手を育て、メジャーに送り出す喜びを得るという、素晴らしい相互関係が生まれていたのです。いかにもアメリカらしいシステムだと思いまし

 

アメリカ人選手の活躍は奥さん次第、と言っても過言ではなく、チーム側の奥さんたちへの気配りが、その選手の持つ本来の力を引き出すキーになるかもしれません。ここにもやはり、アメリカ女性の存在感、というか強さがにじみ出て……ああ、やっぱりこのへんでやめておきます。

 

マイナーからメジャーに這い上がろうという選手は、オープン戦では一打席、一打席が勝負です。ヒットか凡打で人生も変わる、という状態が何試合も続きます。このプレッシャーのもとにバットを振るのと、「無安打でもいいや」と力を抜いて振るのとではまるで条件が違うわけで、 メジャーの

 

確固とした選手はますます有利に、マイナーの選手はますます追い詰められてハンディを負う ことになり

 

僕。指導者として、気づいたことをその都度指摘するのも大事なのでしょうが、そうしていくうちに選手は、「自分で気づくことのできる能力」

 

失ってしまうかもしれません。「何かあっても、誰かが言ってくれるやろう」と、自分自身を深く観察することをやめてしまいかねないの

 

言葉遣いにも驚かされます。一応僕は監督、彼らは選手。しかしどれ

敬語らしきものを使おうとしても、結果返事は「そうっすねー」で始まり、語尾は「したっす」

 

こうして考えると、二軍監督は子育てに似ています。我が家にも 13 歳の息子がおり、ヨメとは連日、同じレベルでの言い争いや取っ組み合いをしています。球場ではなるべく感情的にならぬようにしている僕も、家ではつい理性をなくしてかっとなり、怒鳴りつけることがしばしばです。  しかし、 強く言えば言うほど理解するだろう、もしくは理解しなければおかしい、というのはこちらの勝手な理屈 であって、 言われる側には言わ

の気持ちや言い分 があります。まして根性理論が通用しない世代にとって、感情だけでのぶつかり合いは腹が立つだけで、なんの生産性もありません。  

 

 日本とアメリカの厳しさの違いを知った。