124.英語は右脳で学べ 苫米地英人

こうやって比較してみると、いかに異常な学習をしていたかがわかるはずです。ネイティブの子供が、「リスニング」や「スピーキング」から学習するのに対して、日本人はひたすら「リーディング」「ライティング」から学び始めます。 そこで私は2008年に『英語は逆から学べ!』(フォレスト出版)を著すことにしました。当時の反響は凄まじく、結果的にシリーズ合計50万部を越えるベストセラーになりました


仮に文献や書物を頼りに外国の文化を身につけようとすれば、それは時間のかかる膨大な作業になります。 ですが、アメリカやイギリスでネイティブに混じって生活すれば、英語の文化はすぐに身に染みついてきます。 現地にほんの数カ月滞在し、英語ネイティブによる英語漬けの毎日を送れば、それだけで脳のチューニングが行われ、英語脳と呼べる状態が生成されています。 海外に行く機会がないのなら、英語環境にどっぷり浸れる状態を、自分で工夫してつくりだせばいいのです。


学習と習慣、そして日常に英語環境をつくり上げること。これこそ大人の非ネイティブの人が、英語脳を作り上げる鍵になります。 毎日、自分をその状態に置くことを習慣化すれば、思いのほか早く脳のチューニングを行うことができます。 そして、チューニングさえ済んでしまえば、英語は簡単に使えるようになるのです。


ますから、私自身は条約締結に反対です。 しかし、TPP推進の流れは強く、この流れは止まりそうにありません。 TPP締結の暁には、外国人が大挙して日本の技術、製品、企業、不動産、文物を買いに来たり、外国人労働者が押しよせてくることは目に見えています。 わざわざ外国から日本にお客さんがやってきて、買い物をしたり、労働をしたりするわけですから、いくら国内とはいえ、日本人が日本語だけ使っていれば用が足りる状況ではなくなります。


企業も社員の英語能力が高ければ高いほど企業利益が向上しますから、英語の高い運用能力を持つ社員には今以上に高い評価を与えるようになることでしょう。 つまり、英語は、日本人にとって実学になっていきます。 それならば、単語や文法に取り組んで悪戦苦闘する必要はなおさらなくなります。 なにせ実学なのですから、四の五の考えず目の前の水たまりをひょいと飛び越えるように、「英語脳」を手に入れてしまえばいいのです。 世の中は早い者勝ちです。 運よく本書を手に取ったみなさんは、ぜひ今日からでも、私が紹介する右脳英語トレーニングを実践してみてください。


となると、外国語を母国語と同じように自然に学ぶためには、まずネイティブスピーカーの話す言葉をたくさん聞いて言語中枢を育み、それから話す、読む、書くというふうに、我々が幼児の頃から日本語を覚えたのと同じプロセスで進むのが理想的だ


たとえば、大きなイベントに向かうときに「よし、落ち着いて、力を出し切るぞ」と自分に言い聞かせるのは意識して行うセルフトークです。 いっぽう、たとえば大きな商談をまとめることができたときに「やったぜ!」と思うのは、無意識に行っているセルフトークです。 こうしたセルフトークは英語脳づくりの強力な道具になります。 セルフトークを英語で行うようにすれば、日本語を英語に翻訳して考える日本語脳の思考回路を遮断し、あらゆることを英語で考える英語脳の回路をつくることができるからです。


どのようなときにセルフトークが行われるかといえば、最も多いのは、「情動」が生じるときです。 情動とは、怒り、恐れ、喜び、悲しみなど、一時的かつ急激に生まれた感情の
とです。 たとえば、テストで満点をとって誇らしい気持ちが湧いたときは、「やった!」とか「どんなもんだい!」というようなセルフトークが行われています。 これを何度もくり返すことで、人間は出来事の記憶を、脳の記憶領域に定着させていきます。これが、人間が物事を記憶するときのメカニズムなのです。


英語でセルフトークを行い、情動と英語のセルフトークをワンセットで脳に記憶させることができれば、同じような体験をしたときに英語のセルフトークが脳からダイレクトに引っぱり出されるようになります。 たとえば、成功したときに、 “Yes, I’m good.”
という言葉が無意識かつ瞬時に、浮かんでくるわけです。 情動に直結した英語のセルフトークを引っぱり出してくるのは、原初的な英語脳の働きということができます。 「日本語から英語」に翻訳する回路を通さずに、英語が浮かび、セルフトークとして口をついて出る回路がつくられるからです。 英語脳づくりをこのような方法で始めてください。


一方、連続ドラマは、よりストーリーと人物の会話にフォーカスが当てられています。 日本でも人気になった「アリーmy Love」や「フレンズ!」などは、日常的な会話を集中的に、見聴きすることができ、英語学習にとても向いています。またアメリカ人の文化性や思考性も学ぶことができます。


英語文化にどっぷり浸かるために連ドラを観るわけですから、日本語や日本の文物が周囲に散らばっている環境はよくありません。 それらいっさいをどこか目に入らない場所に片づけ、アメリカで連ドラを観ていると思い込めるようなバーチャルな状況を、自分自身で積極的につくりだすようにしてください。


スピーチによる学習は多くのメリットがあります。 演説した本人になりきるというのは、とても重要なことです。みなさん本来の日本人の人格を、一気に離れてしまうわけです。そうすることによって、英語文化に対する感覚が研ぎ澄まされていきます


つまり、英語の世界に強い臨場感を覚えていれば、それがみなさんの現実なのです。 そして、人間は自らが認識する現実にもとづいて、右脳言語野の文化的パラメータチューニングを行います。 とすれば、チューニングを強烈に推し進めるには、英語世界の臨場感を意識し、それをより高めていくことが必要です


良い英文にふれる機会が圧倒的に不足している非ネイティブが、その状態のまま懸命にライティングに取り組んでも、ガス欠のクルマを無理やりに運転しようとしているようなものです。 では、どうすればいいか。 一番いい方法は、丸暗記です。 「これは!」という良いエッセイ、コラム、小説をたくさん丸暗記するのです。じつはこの方法は、アメリカでも日本でも、多くの作家たちが実践しています。


たいていは目標にしている先輩大作家たちの作品を書き出してから結語まで諳んじるというやり方で、暗記しているのは3作品や4作品の数ではすみません。 中には10~20作品以上も一字一句違えずに頭に叩き込んでいる猛者もいます。 みなさんは職業作家を目指しているわけではないでしょうが、こうした作家たちの方法論は、英語の文章力を向上させるきわめて大きなヒントといえます


私なら、手始めにスティーブン・キングの短編小説あたりから暗記することをお勧めします。彼の作品は、エンターテイメントとして楽しめるばかりか、アメリカに生きる現代人の心の機微を巧みに捉える文章表現が随所に見られます。 もちろん、みなさん自身が「これだ!」と感じた作家、エッセイスト、あるいは


学者の作品でもかまいません。ライティングのお手本になるような、できるだけ現代的な作品を選び、たくさん暗記するようにしてください。 脳に文章パターンを詰め込むのは、頭で考えるほど難しいことではありません。暗記の効果を疑う人もいるかもしれませんが、騙されたと思ってぜひ実践してほしいと思います。 その効果は意外なほど強く現われ、たぶんみなさんはもっと暗記したくなります。 それが、ライティング上達の秘訣なのです。


TPPは、ずばりいえば、人の門戸開放です。明治維新では、モノの門戸開放が行われました。それからおよそ1世紀半という歳月を経て、いよいよ次なる大鳴動が始まっているわけです。 いま日本ではあらゆる点でTPPシフトが起こっていますが、政府が外国人労働者の受け入れに前傾姿勢を取り始めたことは、その一番の地ならしといえます


これを是とするかどうかは、この際関係がありません。波はもうそこまで押し寄せているのです。日本人は、今こそ戦後の長い眠りから覚めて、世界の70億人と伍していかなければなりません。 日本人はこれまで、ものづく